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2020年12月7日 掲載

「成長から見る小児の健康」

基準と比較し疾患発見

 2016年、学校保健法の一部改正により、学校保健の現場で成長曲線の利用が推奨されるようになりました。これにより、今まで点でしか評価されてこなかった児童の成長を時系列で評価できるようになり、今まで見逃されがちだっ た、成長率に変化を来す疾患の早期診断・治療介入が可能となりました。

 具体的には、個々の児童の成長曲線を分析し、基準となる曲線からの外れ具合を評価します。大きく分けて (1)身長の高低 (2)成長速度の異常 (3)体格の異常(肥満・やせ)−という“三つの評価”が可能となっています。客観的な評価基準として、身長のパーセンタイル値(全体を100として数値の小さい方から何番目に位置するかの値)とZスコア (標準値からどのくらい外れているかを示す値)、肥満度を用います。

 長崎市の皆さんの中には、最近学校から、体格の異常について病院を受診するように指摘された方がいると思います。同市では、学校の先生方に作成してもらった成長曲線のうち、基準から外れているものを市医師会内の成長曲線委員会で判定し、受診が必要と判断されたら受診指示書を作成します。

 児童が受診指示書を受け取ったら、まずはかかりつけ医を受診してもらいます。多くは経過観察を行うことになりますが、かかりつけ医が詳しい検査が必要と判断した児童については、高次医療機関への紹介を行うことになっています。

 これまでの調査の結果からは、肥満の診断がとても多いことが分かっています。ほとんどは単純性肥満であり、近年問題になってきている食べ過ぎや運動不足が原因と考えられます。このような児童がおられる家庭では、ご両親も肥満傾向にあることが多く、児童の肥満での受診指示を契機に、食生活や運動などの生活習慣を見直してもらえればと期待しています。

 成長曲線を用いた経時的な評価を行う最も重要な目的は、隠れた病気を見つけることです。正確に描画された成長曲線で急に成長率が増加したり、低下したりということが起こっている場合、何らかの病気が隠れていることがあります。

 成長率が増加する疾患として、思春期早発症や下垂体性巨人症などが挙げられます。また、思春期遅発症、甲状腺機能低下症、頭蓋咽頭腫などの頭蓋内腫瘍疾患、愛情遮断症候群など、さまざまな疾患や状態で成長率が低下することが分かっています。

 なかなか気付かれない疾患も少なくありませんが、そのような場合、成長曲線を手がかりに早期介入が可能になれば、治療だけでなく、家族の負担軽減にもつながる可能性があります。

 本事業は、小中学校の先生方の多大な協力により行われています。普段の業務に追加して、成長曲線の作成に携わっている先生方の努力の下に作られた成長曲線を、しっかりと有効活用し、子どもたちの人生が、より豊かなものになればと願っています。

(長崎市滑石3丁目)わたなべ小児科 院長  渡辺 聡

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