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2021年3月1日 掲載

「心不全の新治療薬」

次の一手、相次ぎ登場

 心不全は「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義されます。最近はがんより予後が悪く、5年間で半分の人は死亡します。心不全を発症した患者さんは、治療薬をのみ続けることが多くなります。

 心臓は全身に血液を送り出す「収縮」と、全身から戻ってきた血液を取り込む「拡張」を繰り返しています。左室の駆出率(心臓の収縮力を示す値)が低下した心不全を「HFrEF」、左室の駆出率が保持された心不全を「HFpEF」と呼びます。

 HFrEFに対しては、高血圧治療薬の「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬」(アンジオテンシン変換酵素=ACE=阻害薬、またはアンジオテンシン受容体拮抗(きっこう)薬=ARB=、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)や、心拍数を抑える「β(ベータ)遮断薬」が標準治療薬として確立されています。半面、HFpEFに対する確固たる標準治療薬は残念ながら存在しません。次々と市販される抗がん剤に対し、心不全治療薬はおくれをとっていました。

 しかし近年、次の一手となる新しい治療薬が登場したので、紹介します。

 (1)イバブラジン(コララン) 心臓のペースメーカーの役割を果たす洞房結節に作用し、心拍数を低下させます。心不全だと心拍数が上がりやすくなるため、コントロールする必要があります。β遮断薬で安静時の心拍数を1分当たり75回未満にコントロールできない時に適応となります。

 (2)サクビトリルバルサルタン(エンレスト) ARBである「バルサルタン」と、「ナトリウム利尿ペプチド」を増加し、心血管保護作用を発揮する「ネプリライシン阻害薬」の「サクビトリル」を、1対1で結合させた化合物です。ACE阻害薬やARBでコントロールできない心不全患者において、本薬剤に切り替えることで心不全入院が減少し たことが確認されています。

 (3)SGLT2阻害薬 尿中へのブドウ糖排泄(はいせつ)を増加させることにより、血糖を下げる薬です。本来は2型糖尿病の治療薬ですが、糖尿病の有無にかかわらず、心・腎保護効果があることが確認されました。既に心不全の標準治療を受けているHFrEF患者に投与した大規模臨床試験で、心不全悪化による入院を約30%も減少させました。「ダパグリフロジン(フォシーガ)」が、慢性心不全治療薬としての追加承認を昨年11月に受けました。

 本剤が心不全に効くのは、その多面的効果にあります。単に血糖を下げるだけでなく、利尿作用があり、脂質・尿酸低下作用、貧血やエネルギー代謝効率も改善する、いわばハイオクガソリンなのです。

 HFpEF患者さんの予後を改善した薬は残念ながらありませんが、高齢者に多い心臓の難病「トランスサイレチン型心アミロイドーシス」の治療薬「タファミディス(ビンダケル)」も上市されました。非常に高価ですが、アミロイドという変性した異常タンパク線維が心臓に沈着するのを防ぐ薬です。

(長崎市茂里町)日赤長崎原爆病院循環器内科 部長・副院長  芦澤 直人

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