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2021年5月3日 掲載

「産婦人科のダビンチ手術」

医師がロボットを操作

 最近の婦人科腫瘍手術には、ロボット支援下手術(ダビンチ手術)が、先進的かつ低侵襲(生体をあまり傷付けない)な医療として導入されています。「ダビンチ」は、米国で開発された手術支援型ロボットです。ロボットといっても、手術を行うのはロボットではなく産婦人科の医師です。医師がコンソール(操作台)に座り、ロボットアームを操作して手術します。

 2018年4月にはダビンチ手術のうち、婦人科良性腫瘍に対する子宮全摘術、ならびに初期の子宮体がんに対する子宮体がん手術が保険適用になりました。また20年4月には、子宮脱などの骨盤臓器脱に対する仙骨腟(ちつ)固定術(RSC)も保険適用になりました。米国では、子宮がんの80%にダビンチ手術が実施されており、日本の産婦人科医療においても飛躍的に普及すると予想されます。

 ダビンチ手術のメリットは、腹腔(ふくくう)鏡手術と同様に、開腹手術と比較して傷が小さく、術後の回復が早いことです。特に、腹腔鏡手術と比較してもダビンチ手術の出血量は有意に少なく、子宮体がん手術の在院日数も6〜7日間に短縮できるといった成果が得られています。ですが、治療費は腹腔鏡手術と同じです。

 ダビンチ手術は、婦人科領域の子宮筋腫や子宮がんなど、骨盤腔の狭く深い場所にある病巣に対して、リンパ節郭清や癒着剥離を行う際に、最もその能力を発揮します。腹腔鏡手術と比較して、より精密な手術操作が可能になり、特に肥満例に対する視野の展開や、病巣までのアプローチが容易であり、安全性が高いと考えられています。

 頭低位の姿勢が長時間続くので、心疾患・肺疾患や緑内障の基礎疾患がある方には適さない可能性がありますが、術前検査を行うなどして医療安全性の向上に取り組んでいます。

 長崎大学産婦人科は18年10月よりダビンチ手術での子宮全摘術、19年1月より子宮体がん手術を開始しています。婦人科疾患に対するダビンチ手術は、県内では長崎大学病院産婦人科でのみ実施することができます。20年4月には、最新機種2台が導入され、より精密な手術操作が可能になり、手術までの待機時間は格段に短縮されています。

 ダビンチ手術にも、従来の開腹手術や腹腔鏡手術と同様に、手術に伴う合併症が起こる可能性はあります。当科では、腹腔鏡技術認定医と婦人科腫瘍専門医とがチームになり、かつダビンチ手術のライセンスを保有したロボット手術の専門医が、手術を担当しています。現在、手術のライセンス保有者は3人、介助者のライセンス保有者は4人です。スタッフ全員が同一のモニターを見て安全を確認しながら手術を行い、常に医療安全の確保と技術向上に努めています。

 今後は骨盤臓器脱に対してもダビンチ手術を行っていく予定です。在院日数の短さや出血量の少なさなどの特性から、早期の子宮がんにこそ適していると考えています。婦人科疾患のダビンチ手術に関しては、長崎大学病院産婦人科へご相談ください。

(長崎市坂本1丁目)長崎大学病院産婦人科 教授  三浦 清徳

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