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2021年8月15日 掲載

「抗がん剤」

専門医を選択すべき

 今回のテーマは抗がん剤ですが、その前に遺伝子とがんのお話をします。

 (1)がんとは何か
 一言でいえば、がんは「遺伝子の病気」です。遺伝子は人間の体を作る設計図に相当します。ヒトには約3万個の遺伝子があり、細胞内の「核」内の染色体の中で、DNAが遺伝子として働いています。正常細胞が何らかの原因で遺伝子の変異を起こして、がん細胞ができ、ある場所に定着して、細胞分裂を繰り返して大きくなったものが「がん」という病気です。

 (2)抗がん剤とは何か
 (1)殺細胞性抗がん剤(古典的抗がん剤)=がん細胞のDNAの合成、または細胞分裂を妨げることで、がん細胞の増殖を抑えます。抗がん剤は新陳代謝が盛んな細胞に多く取り込まれます。このため、新陳代謝が特に盛んながん細胞に大量に取り込まれ、効果を示す一方、正常細胞にも一部取り込まれるため、副作用が生じます。

 (2)分子標的薬=がん細胞に特異的な分子を標的として、選択的に結合することで、がん細胞の増殖を抑えます。当初は他の分子には影響なく、標的だけに作用するため副作用は少ないと期待されましたが、残念ながら、本来の標的と
は異なる別の分子にも作用するため、副作用は避けられません。

 (3)ホルモン薬=乳がんや前立腺がんなど、ホルモンで増殖するがんに用いるもので、ホルモンの結合を妨げます。これもホルモン低下による副作用が出現します。ほかに「非特異的免疫賦活薬」がありますが、現在はあまり使われません。

 (3)毒をもって毒を制す
 抗がん剤は通常の薬と違い、安全域(治療効果のある投与量と重い副作用を引き起こす投与量との差)が極めて狭い薬です。薬というよりは、むしろ毒薬に近いものです。

 抗がん剤治療は抗がん剤という毒薬を用いて、がん細胞という毒をたたく治療といえます。従って治療を受ける際には、抗がん剤治療に精通した医師を選択するべきです。資格が絶対条件ではありませんが、がん薬物療法専門医などの資格は医師を選ぶ参考になると思います。

 (4)抗がん剤だけで治癒や根治は可能か?
 抗がん剤は、きちんとした理論的背景と臨床試験に基づくデータに支えられており、効果は確かにあります。ただ残念ながら、抗がん剤治療だけで治癒、根治することは基本的にはありません。抗がん剤治療の目的は、がんの増大を抑えて長生きすることです。ある薬が効いていても、やがて、その薬に抵抗を示すがん細胞がほぼ必ず出現します。治療 効果には限界があります。

 例えば現在、大腸がんは標準治療(現時点で最も有効な治療)として、最大5次治療まで可能です。選択肢が多いのはいいことですが、逆にいえば特効薬がないことの裏返しでもあります。しかし、腫瘍が縮小した際に完全切除できれば、治癒や根治が得られる可能性はあります。がんの治療には外科や放射線科等の複数の科・多職種の連携が必要です。腫瘍内科医としての私が外科にいる所以(ゆえん)も、ここにあります。

(長崎市坂本1丁目)長崎大学病院大腸・肛門外科(移植・消化器外科) 講師  小林 和真

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