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2021年10月4日 掲載

「加齢黄斑変性症」

「社会的失明」の恐れも

 加齢黄斑変性症は、日本における第4位の失明原因疾患です。最近ではいろいろな啓発活動が行われ、広く知られる ようになりましたが、少し前までは決定打となる治療法がなく、治療に苦慮する病気でした。

 人間の眼球に入ってきた光は角膜、水晶体で屈折し、ピントが合った状態では、網膜の物を見る中心部に当たる「黄斑部」という場所で焦点を結びます。

 その情報は視神経を通じて脳に伝えられ、そこで初めて、ものの色や形を認識します。黄斑部には物を見る上で大変優秀な細胞が集まっていますが、生涯にわたって光の刺激を強く受ける場所でもあり、病気が起こりやすいのです。

 黄斑部に障害が起こると、見ようとするところが見えなくなったり、ゆがんで見えたりするため、生活を送る上で不自由な状態になります。一般に光も感じなくなる状態を失明といいますが、加齢黄斑変性症は、周りの視野は維持されるものの、見ようとするところが見えなくなるため、社会的失明と呼ばれます。

 加齢黄斑変性症には、大きく分けると二つのタイプがあります。一つは萎縮型(ドライタイプ)と呼ばれ、加齢によって網膜に老廃物がたまることで網膜内の細胞が栄養不足に陥り、次第に傷んでいきます。サプリメントなどで経過を見る以外に明確な治療法はありませんが、進行はゆっくりです。

 もう一つは滲出(しんしゅつ)型(ウェットタイプ)と呼ばれるものです。このタイプは、通常の状態では存在しない病的な血管(新生血管)が網膜に生えてきて、浮腫を起こしたり、出血したりします。
 このタイプは、放置するとものがゆがんで見えたり、見ようとするところがはっきり見えなくなったりして、社会的失明に陥ることがあります。萎縮型と比べて進行が速いのが特徴で、できるだけ早く治療する必要があります。

 現在広く行われているのが「抗VEGF薬」を眼内に注射する治療です。治療による合併症が少なく、安全で効果が高いのが特徴です。同じ滲出型加齢黄斑変性症でも、1回から数回程度の治療で何年も再発なく経過する患者さんもいれば、継続的に注射が必要な方もいて個人差があります。

 治療回数を重ねても沈静化しない時や、時間的、経済的理由で頻回な治療が困難な時には、光線力学的療法(PDT)を組み合わせて行うこともあります。新生血管に集まる性質のある薬と特殊な弱いレーザーを用い、新生血管だけを選択的に閉塞(へいそく)させる治療です。

 中心が見えにくい、まっすぐなものがゆがんで見えるなどの症状があれば、黄斑部に病気が起こっているかもしれません。治療のタイミングを外せば治療が困難な病気も多く存在します。年のせいと放置せず、異変があれば早めの受診を心がけましょう。

(長崎市大浦町)出口外科眼科医院 眼科医師  出口 裕子

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