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2021年11月8日 掲載

「食道がん」

喫煙、飲酒が危険因子

 日本人の死因の第1位はがんです。日本人の3割弱の方ががんで亡くなり、一生のうちに2人に1人はがんにかかるといわれています。

 最近増加傾向のがんの一つに食道がんがあります。国立がん研究センターの統計によると、2019年の食道がんによる死亡者数は全国で1万1619人、男性ではがんによる死因の第7位、男女合わせると第10位です。男性の発症 が女性の約5倍と多く、60〜80歳代に好発します。

 日本人の食道がんは「扁平(へんぺい)上皮がん」というタイプが90%以上を占めています。扁平上皮がんの危険因子は喫煙と飲酒で、両方の習慣がある人はさらに危険性が高まります。

 アルコールが体内で分解されてできるアセトアルデヒドは、発がん性の物質です。日本人の多くはアセトアルデヒドを体内で分解しにくい体質を持ち、この体質の人はアルコールを摂取すると顔が赤くなります。つまり飲酒の習慣があり、飲酒すると顔が赤くなり、さらに喫煙もしている中高年男性は発症の危険性が高いということです。

 一方、欧米では「腺がん」というタイプの食道がんが半数以上を占めています。これは逆流性食道炎による持続的な炎症や肥満、喫煙が関与しているといわれています。日本ではまだ数%ですが、今後増加してくる可能性があります。

 食道の壁は内側から 粘膜 粘膜下層 固有筋層 外膜−に分かれています。食道がんは粘膜から発生し、進行する
と食道の壁の深い層や周囲の臓器に広がったり、リンパ節や他の臓器に転移したりします。

 がんが粘膜内にとどまりリンパ節転移がないものは早期食道がんと定義されています。早期のがんであれば内視鏡治療も可能ですが、進行すると外科手術や、放射線と抗がん剤を組み合わせた治療になります。内視鏡治療のメリットは、他の治療に比べると体に対する負担が少なく、入院期間も短くて済むことです。

 がんが進行すると食べ物がつかえる感じや、熱いものが胸にしみるなどの症状が出ることがありますが、早期がんではほとんど無症状です。したがって、早期がん発見の契機は人間ドックや健診などの内視鏡検査になります。

 バリウム検査でも進行がんの発見は可能ですが、内視鏡治療可能ながんの発見は困難です。内視鏡検査は胃カメラと もいわれますので、胃を観察するために行っていると思われる方もいるかもしれませんが、内視鏡医は通常、胃だけでなく食道も観察しています。最近の内視鏡は性能も良くなり、光の波長を変えて観察する「画像強調観察」で以前より早期がんを発見しやすくなりました。

 食道がんは早い段階で見つかった場合は治癒が可能ですが、転移を来した状態では予後は悪くなります。食道がん全体での5年生存率は50%弱です。同じ消化管のがんである胃がんや大腸がんが70%以上なのと比べると、進行しやすいことが分かります。予防のため禁煙し、飲酒は適量にして、定期的な内視鏡検査をするようお勧めします。

(長崎市宝町)井上病院 副院長  大仁田 賢

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