>>健康コラムに戻る

2021年11月14日 掲載

「女性に多い甲状腺疾患」

ホルモン分泌異常が原因

 「甲状腺の病気」と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。あまりなじみがないかもしれませんが、甲状腺は体の健康を守る上で、欠かせない役割を担っています。

 甲状腺は喉仏のすぐ下にある臓器で、チョウが羽を広げたような形をしています。幅4センチほどの薄く小さな臓器で、重さは15〜20グラム程度です。

 甲状腺はヨウ素を基にT4(サイロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)という2種類の甲状腺ホルモンを合成・分泌・貯蔵しています。この甲状腺ホルモンは、心臓や肝臓、腎臓、脳など全身の臓器に作用して代謝を促進したり、胎児や小児における体や脳の発育を促すなど、大切な作用を持っています。

 甲状腺の疾患は(1)甲状腺ホルモン分泌が多くなるバセドウ病(2)甲状腺ホルモン分泌が少なくなる慢性甲状腺炎(橋本病)(3)甲状腺内に腫瘤(しゅりゅう)ができる甲状腺腫瘍−などが代表的です。

 バセドウ病は自己免疫疾患の一つで、TSHレセプター抗体(TRAb)という甲状腺を刺激する抗体によって、甲状腺ホルモンが過剰に産生されます。20〜30代の女性に多く、患者の男女比は1対2〜3ほどです。甲状腺が大きく腫れ、頻脈、動悸(どうき)、息切れ、倦怠(けんたい)感、手のふるえ、多汗、体重減少などの症状が見られるようになります。飲み薬での治療が標準的ですが、場合によってはアイソトープ療法や手術療法が選択されます。

 慢性甲状腺炎も自己免疫疾患の一つで、慢性的な炎症により甲状腺腫大をきたします。女性に多く成人女性の10人に1人が発症、男女比は1対20〜30ほどです。甲状腺機能低下症になると、無気力、むくみ、皮膚の乾燥、寒気、体重増加などが生じますが、慢性甲状腺炎の方が全て甲状腺機能低下になるわけではありません。慢性甲状腺炎の方のうち、実際に甲状腺機能低下症になるのは4、5人に1人程度です。治療は、不足した甲状腺ホルモンを補うための飲み薬を服用し、生涯必要となることが多いです。

 甲状腺腫瘍は、良性のものがほとんどで、大きさが2センチ以下だと症状はないことが多いですが、大きくなってくると、喉の違和感や飲み込みにくさを感じることがあります。悪性が疑われる場合には、細胞を採取し、病理顕微鏡で検査をする穿刺(せんし)吸引細胞診を行います。血液検査の時と同様の注射針を用いて細胞を採取します。数分で終わる検査で、当院でも週に1回行っています。細胞診は診断に非常に有用ではありますが、良悪性の判断が難しいタイプの腫瘍もあり、手術で摘出した後に診断に至るケースもあります。甲状腺のがんにも種類がありますが、きちんと検査や診断を受け、治療を続けることが重要です。

 甲状腺疾患の症状は多様ですが、血液検査や超音波検査で診断することができます。侵襲も少なく、検査結果も1週間程度で判明します。このような症状に心当たりがある場合は、まずかかりつけの先生に相談し、異常がある場合は、甲状腺に詳しい医師がいる医療機関を紹介してもらい、検査を受けてみてください。

(長崎市茂里町)日赤長崎原爆病院 糖尿病・内分泌内科 医師  江藤 真実

>> 健康コラムに戻る