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2021年12月6日 掲載

「女性のがんと遺伝子検査」

発症しやすい体質か判別

 遺伝子検査で卵巣がんと乳がんを発症しやすい体質が分かるようになりました。乳がん、卵巣がんの患者さんには「BRCA」という遺伝子の病的変化(乳がんと卵巣がんにかかりやすい遺伝子配列の変化)が、それぞれ乳がんの人の約5%、卵巣がんの人の約10%に認められます。こうした人は、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC=Hereditary Breast and Ovarian Cancer)症候群と診断されます。

 一般女性が一生涯に乳がん、卵巣がんに罹患(りかん)するリスクはそれぞれ7%、2%未満ですが、HBOCの女性ではそれぞれ56〜87%と27〜40%前後とされています。従ってHBOCと診断されたときの対応として、検診あるいは未発症臓器(例えば、乳がんの患者さんであれば卵巣)のがん発症を予防する手術(リスク低減手術)が考慮されます。

 乳房に対しては、乳がん検診あるいはリスク低減乳房切除術(RRM=Risk Reducing Mastectomy)が推奨されています。一方、卵巣に対しては、リスク低減卵巣・卵管切除術(RRSO=RiskReducing Salpingo―Oophorectomy)が推奨され、手術を選択しない場合は、次善の策として、半年に1回の経腟超音波検査および腫瘍マーカー(CA125)による検診が考慮されます。

 2020年4月より、卵巣がんあるいは乳がんの患者さんには、BRCA遺伝子検査が保険診療になりました。さらに、卵巣がんあるいは乳がんの患者さんがHBOCと診断された場合、その後の未発症臓器の検診ならびにリスク低減手術も保険診療になりました。BRCA遺伝子検査で体質を知ることによって、未発症のがんを予防できる可能性があります。HBOCの診断には、リスクを評価し対応する遺伝医療の専門家(臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー)による遺伝カウンセリングが大切です。

 長崎大学病院の遺伝カウンセリング部門には、臨床遺伝専門医ならびに認定遺伝カウンセラーが在籍しており、遺伝カウンセリングを通じて、遺伝学的検査やその結果の解釈・対応について、最も納得した選択を自己決定できるように取り組んでいます。そのため、遺伝に関する悩みや不安を抱える相談者やその家族の話をよく聞いて、自己決定に必要な遺伝医学的情報を提供しています。

 長崎大学病院はHBOC診療の基幹施設であり、長崎県内の協力病院と遺伝カウンセリングの連携体制を整備しています。がんの遺伝に関する不安や悩みがある方は、かかりつけ医を通じて長崎大学病院遺伝カウンセリング部門へお問い合わせください。

(長崎市坂本1丁目)長崎大学病院産科婦人科 教授  三浦 清徳

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