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2022年1月17日 掲載

「冬の注意点 〜救急医より〜」

入浴中事故、血圧上昇防いで

 本格的な冬の到来を迎えました。日本には四季があり、私たちはその季節のつくり出す自然の美しさや果物、野菜といった大地の恵みに魅了されます。一方で健康を維持するためには季節に応じた注意点があります。夏には脱水や熱中症に注意しなければなりませんが、冬はどのようなことに注意すればいいのかについて述べたいと思います。

 冬の入浴にはご用心! 寒い夜の温かいお風呂は最高です。ですが、厚生労働省の人口動態調査によれば、日本全国で65歳以上の高齢者の「不慮の溺死および溺水」による死亡者数は年間約7千人に及びます。そのうち約7割が浴槽における溺水で、その発生数は冬場に集中しています。高齢になると血圧を正常に保つ機能が低下するため、寒暖差による血圧の変動があると脳の血流が減り意識を失うことがあります。これが入浴中に生じると溺水事故につながると考えられています。

 入浴中の溺水事故を防ぐためには (1)入浴前に脱衣所や浴室を暖めておく (2)長風呂は避ける (3)浴槽から急に立ち上がらない (4)飲酒後の入浴は避ける (5)入浴前に同居者に一声掛ける (6)同居者は入浴中の高齢者の様子に注意する−といったことが重要です。

 お餅を安全に食べる
 お雑煮に入ったやわらかいお餅も最高です。ただ毎年1月になると、お餅を喉に詰まらせ心肺停止状態で搬送されてくる患者さんがおり、救急医として胸を痛めます。高齢者はかむ力が弱くなるため、食べ物をかみ砕いて小さくすることが難しくなります。また、飲み込む力も弱くなるので、食べ物をスムーズに喉の奥に送って飲み込むことが難しくなります。さらに喉に食べ物が詰まったとき、咳(せき)などで押し返す力も弱くなるため、窒息のリスクが高くなります。

 おいしいお餅を安全に食べるための注意点は(1)お餅を小さく切る(2)よくかんで唾液とよく混ぜ合わせてから飲み込む−といったことが重要です。窒息のリスクはお餅に限ったことではありません。パンやお肉を喉に詰まらせて搬送されるケースもあり、同居者や飲食店が高齢者に食事を提供する際には、小さく切っておくといった配慮が必要です。

 血圧の上昇に注意
 冬は血圧が上昇しやすい季節です。寒くなると末梢(まっしょう)の血管が収縮するからです。救急搬送されてくる患者さんには、血圧の上昇を契機に発症したと考えられる患者さんも多く「血圧さえしっかり管理しておけば、こうならなかったのに…」と血圧管理の重要性を痛感します。

 最近の研究では、脳心血管病(脳卒中や心筋梗塞など)の発症を予測する因子として、病院で測定する血圧よりも家庭で測る血圧の方が優れていることが分かってきました。家庭血圧の値が5〜7日の平均で収縮期圧135mmHg、拡張期圧85mmHgのどちらか一方でも上回れば、高血圧と診断されます。読者の皆さんに、家庭で血圧を測定する習慣を付けていただくようにお願いして、筆を置きたいと思います。

長崎市医師会救急・災害医療 担当理事
長崎みなとメディカルセンター 救命救急センター長  早川 航一

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