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2022年2月7日 掲載

「認知症デイケアの役割」

重度の患者に専門対応

 高齢者福祉の基本的施策のうち、通所型サービスは、認知症患者や家族の地域生活を支える上で不可欠な社会資源です。軽度の認知症なら、通常の通所リハビリテーション(デイケア)や通所介護(デイサービス)の利用が可能ですが、重度の患者に対する専門的なサービスとして、重度認知症患者デイケア(認知症デイケア)があります。

 認知症デイケアは、精神科を標榜(ひょうぼう)する病院・診療所に設置される通所医療施設です。通常のデイケアやデイサービスとは異なり、行動・心理症状(怒りやすい、妄想、幻覚、興奮、不穏、不安、昼夜逆転、暴言・暴力、徘徊(はいかい)、抑うつなどの症状)が著しい患者を対象とした、医療保険による精神科専門療法です。

 最大の特徴は、精神科医のほか作業療法士、看護師、精神保健福祉士などの多職種が連携して、行動・心理症状を示す患者に対応する点にあります。より生活に近い場面(送迎、食事、レクリエーション、日常会話、トイレなど)で、長時間にわたり患者を観察できる利点もあります。

 患者が激しい行動・心理症状を示しても、専門職が協働して住み慣れた地域での生活を継続し、入院・入所をせずに、可能な限り通所で対応しようとするものです。このことは国の方向性と一致しています。今後の認知症ケアの一つとして、認知症デイケアはとても重要なのです。

 2021年3月、日本精神科病院協会の調査で、認知症の重症化予防、機能維持、行動・心理症状の予防・対応に、認知症デイケアが有効であることが明らかになり、以下のように証明されました。

 (1)認知症の専門医と多くの専門職のスタッフが充実し、患者本人・家族にとって、症状悪化の際もどうにか解決してくれるという安心感があった。

 (2)精神症状の評価、治療が適切に行われ、介護サービスでの対応が困難なケースの場合でも個別ケアを行い、認知症の進行抑制につながった。

 (3)医学的評価が定期的に行われ、若年性認知症の人への有効な認知症デイケアもできた。

 (4)認知症デイケア利用の前後の心理検査において、半数以上の人で機能維持か改善が認められた。

 (5)介護負担が軽減し、在宅生活が送りやすくなった。

 認知症デイケアは介護保険との併用も可能です。認知症の地域包括ケアシステムでは、医療と介護の連携が取れています。しかし、特に認知症の重症化予防には、医療保険適用の認知症デイケアが必要不可欠であると思われます。

 認知症デイケアは、チームとして患者や家族と向き合い伴走する医療でもあります。患者の意思決定能力が低下する前に、早期から患者と家族との関係を修復することが重要です。また患者や家族だけでなく、地域に対して認知症の正しい知識や理解を啓発していくことも、精神科医療の一つです。認知症の行動・心理症状でお困りの方はどなたでも、認知症専門病院へ相談されてみてください。

(長崎市布巻町)三和中央病院精神科 医師  馬場 公文

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