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2022年3月21日 掲載

「予防接種と手術」

予防接種と手術

 手術予定の患者から「インフルエンザワクチンを接種したいがいつまでに接種すれば良いですか?」と相談を受けることがあります。患者が入院前日にインフルエンザワクチンを接種して来たために、手術中止にしたこともあります。

 予防接種のワクチンは不活化ワクチン(3種・4種混合、インフルエンザ、髄膜炎菌、ヒトパピローマウイルス、日本脳炎、B型肝炎、肺炎球菌、インフルエンザ菌b型=Hib=)と生ワクチン(ポリオ、麻疹、風疹、麻疹風疹混合、BCG、流行性耳下腺炎、水痘、ロタウイルス)に大別されます。日本では予防接種法に基づき、定期接種あるいは任意接種が行われています。

 一方、手術や全身麻酔の侵襲(心身への有害な影響)はさまざまな形で免疫機能に変調を来します。副作用が起きた際、原因は予防接種か手術か判別がつかなくなるのを防ぐ必要があります。従来は不活化ワクチンで2週間、生ワクチンで4週間置いて実施することが推奨されてきました。

 しかし、手術と予防接種の間の相互作用を直接的に示す明確なエビデンス(科学的証拠)や絶対的な禁忌はなく、近年では待機期間の短縮化が認められるようになりました。一般的にではありますが、不活化ワクチンは2日間、生ワクチンは3週間という考え方が示されています。待機期間は施設ごとに異なるため、実際に手術を受ける際は施設に確認しましょう。

 一方、新型コロナウイルスワクチンはいずれにも属さない新しいタイプで、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンと呼ばれます。新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の設計図となるmRNAを、脂質の膜に包んだ製剤です。接種によりmRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、これを基に細胞内でウイルスのスパイクタンパク質が産生され、スパイクタンパク質に対する中和抗体の産生と細胞性免疫の応答が誘導されることで、感染症を予防できると考えられています。

 mRNAワクチン自体が病原性を持つものではないので、手術との間の待機期間は不活化ワクチンと同様に2日間とされていることが多いです。もしも新型コロナウイルスに感染したら、院内感染予防の観点から重症度が軽症−中等症患者では治癒後10日間、重症感染患者では15〜20日間は手術を行わないことが推奨されています。

 また待機可能な手術であれば、感染診断から7週目以降に予定することが推奨されています。その時点で症状が継続している場合には、手術の時期やリスクについて慎重に考慮する必要があります。感染後7週未満の手術患者や7週以降でも症状が残っている患者は、非感染者に比べ手術後の死亡リスクが高くなることが分かってきているからです。

 新型コロナウイルス感染症は新しい感染症であり、今後も新たな知見が得られていくと思いますが、感染後はリスクも高まります。手術前は感染に十分気を付けて生活行動を見直してください。

(長崎市新地町)長崎みなとメディカルセンター麻酔科 主任診療部長  三好 宏

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