>>健康コラムに戻る

2022年5月2日 掲載

「不登校」

責めることなく見守る

 文部科学省は「病気や経済的理由以外で年間30日以上欠席している児童・生徒」を不登校と定義しています。小学生は約140人に1人、中学生は30人に1人、高校生は60人に1人の割合で不登校になる子がいます。高校生は横ばいですが小中学生は増加傾向です。原因は学業不振、人間関係、発達障害などさまざまですが、単一のことは少なく、複数の要因が絡み合っているため、原因をはっきり答えることができない子がほとんどです。

 共通して言えることは、学校に行っていないことを何とも思っていない子はいないということです。どこかで後ろめたい思いと焦りを抱えて毎日過ごしています。学校に行けないことで基本的な安心感や自己肯定感が失われ、心のエネルギーが低下しています。従って不登校への対応としては、いかに子どもの心のエネルギーを高めるかということになります。

 具体的には、お子さんが頭痛、めまい、腹痛などの症状が頻繁に出現して学校を休む日が増えてきた場合、まずはかかりつけの病院を受診し、病気が隠れていないかどうか診察してもらいましょう。片頭痛、起立性調節障害などは薬物療法により症状の緩和が期待できます。

 どこにも異常がなければ「体の傷」はないとして、次は「心の傷」の対応となります。まだ元気があるようであれば、別室登校や午前中登校など登校形態にこだわらず、登校できる頻度を大事にしましょう。先生と相談して、学校での安全な居場所を確保してください。登校しようとしても足がすくんで家から出られない場合、心の傷は深いと判断し休養を優先します。学校は心を削ってまで行かないといけない場所ではありません。経験上、休みは短期間にとどめるより2週間〜1カ月程度、最初から長期に設定した方が緊張は取れやすく、心のエネルギーも高まりやすくなります。休 みの間、特別なことをする必要はありません。いつも通り、朝起きて3食しっかり食べて、夜寝てください。夜型は体の負担になり、せっかく休んでいるのに心の休みが取れなくなります。生活リズムは守るようにしましょう。

 3食食べて睡眠が取れれば体は元気になります。次第に心のエネルギーも高まり、家族と話せるようになり、退屈から外に出たがるようになります。その時は散歩でも買い物でもかまわないので、外に出て、また外からエネルギーをもらえるようにしましょう。

 この段階に入ると居場所の確保が大事になります。学校に居場所がつくれれば、軽く登校刺激をしてあげてください。登校が困難であればフリースクールでも習い事でも教育委員会の適応教室でもよいので、安心できる外の居場所をつくってあげましょう。外で人と話すことができれば、エネルギーはさらに高まっていくでしょう。

 ただ、どの過程も期間には個人差があります。1週間程度で通り過ぎる子もいれば1年以上かかる子もいます。慌てないでください。焦らないでください。でも諦めなくて大丈夫です。調査では不登校を経験した子の8割以上は、20歳時点で就学・就職しています。この子の成長に必要な大事な期間と思って見守ってあげてください。

 不登校の子は「行きたくない」ではなく「行きたくても行けない」状態です。「この世の中で一生懸命に生きてない人間は誰一人としていない。その時はそうするしかできなかっただけ」、以前不登校だった方の言葉です。不登校はなまけや挫折などではなく、心の傷を癒やすため、将来社会に出るために、子どもにとって意味のある行動です。責めることなく肯定的、支持的、時に楽観的に見守ってください。家族だけではうまくいかないことも多いと思います。学校、病院、支援センターでチームを組んで支えていく体制をつくりましょう。

(長崎市かき道3丁目)冨永小児科医 院長  冨永 典男

>> 健康コラムに戻る