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2022年7月18日 掲載

「高齢者の栄養維持」

食事と運動で “貯筋” を

 皆さん、元気に食べていますか? 新型コロナウイルス禍で自宅で過ごすことが増えた分、テイクアウトや宅食サー ビスも充実し、かなりの種類のお食事が自宅で食べられるようになりました(費用はかかりますが)。しかし、好きなものを好きなだけ食べて栄養過多で肥満になったり、栄養が偏ってしまったり、逆にあまり身体を動かさないので、食欲がなくなり体重が減ってしまったという人もいます。そんな時に病気になったり、けがをしたりしたらどうなるでしょうか?

 1995年の海外論文で「75歳以上の高齢者が救急搬送されると、入院時に栄養不良だった人は栄養状態が良好だった人に比べ、その後に亡くなる割合が約2倍になる」という衝撃の結果が報告されています。多くの病院には医師、看護師、薬剤師、管理栄養士等による「栄養サポートチーム」があり、入院患者さんの栄養状態を把握し主治医に提案を行っていますが、それでもなお、こんなに!という結果です。普段から栄養状態を良好に保つような生活をすることが、とても大事だということです。

 私は当院の緩和ケア内科外来で、がんの患者さんなどを診ています。がん治療中(手術、放射線治療、抗がん剤治療など)の人、治療が終了した人のどちらにもお勧めしているのは (1)朝食にタンパク質をしっかり取る「朝タン」 (2)ラジオ・テレビ体操や無理のない筋トレ(座ったままでの足上げ、立ち上がり、壁を手で押すなど) (3)さまざまな栄養補助食品の利用−、といったことです。

 (1)の「朝タン」は卵や豆腐類、魚肉ソーセージなど1品加えて、タンパク質を10〜20グラム程度余計に取るようにします。これが筋肉を増やすこと、つまり “貯筋” につながります。 (2)の軽い運動で筋肉を動かして筋力をつけ 、とにかく転ばないようにします。週2回の強い運動より、毎日10〜30分程度軽い筋トレを続ける方が大事です。

 なかなか食べられない時には (3)の栄養補助食品をお勧めします。お薬として処方できるもの、ドラッグストア・インターネット等で購入できるものがたくさんあります。

 ただし、本やインターネットでよく目にする「〇〇を食べれば大丈夫!」「〇〇でがんが消えた!」といった見出しには注意を。紹介されている食材自体に健康に役立つ成分があるとしても「〇〇だけ食べていれば」「〇〇を多く取れば」それでよい、という誤解を生みかねません。

 「糖質オフ」「ロカボ(炭水化物少なめ)」といった食品や「断食療法」の広告も目立ちますが、特に糖質を急にやめると低血糖発作が起きたり、エネルギーが不足したりしがちです。貧血になる恐れもあります。気になる点はかかりつけ医や看護師、管理栄養士などに相談してください。

 当院では「栄養サポート外来」を開設して対応しています。また県医師会などでは、在宅療養者向けに介護保険を使った「訪問栄養指導」を実施しており、2018年度は931件の利用がありました。ご利用をお勧めします。

(長崎市茂里町)日赤長崎原爆病院 緩和ケア内科医師  大原 寛之

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