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2022年8月1日 掲載

「真珠腫性中耳炎」

痛みや難聴、違和感に注意

 難聴、反復する耳漏(耳からの分泌物、耳だれ)、耳痛あるいは持続する耳の違和感などの症状があったら、真珠腫 性中耳炎の可能性があります。一度、耳鼻咽喉科専門医を受診されることをお勧めします。

 真珠腫性中耳炎という病名を聞きなれない方も多いかなと思います。鼓膜の一部が袋状に鼓膜の裏側方向に引き込ま れて陥没し、その中にあかがたまってしまった特殊な状態を指します。細菌が繁殖してしまうと難治性の中耳炎となり、悪臭を伴った耳漏が生じます。

 放置して炎症を繰り返すと、袋状にたまったあかが圧力で周囲の骨を溶かしながら徐々に大きくなっていきます。大きくなるにつれて音を伝える大事な耳小骨が破壊されると、徐々に難聴になり、さらに長い年月をかけて耳小骨の奥の三半規管、顔面神経管や脳実質を守っている骨を溶かすと、めまい、顔面神経まひ、あるいは髄膜炎など、さまざまな重篤な事態を引き起こすこともあります。

 主な原因としては、鼻すすりの癖や耳管(耳と鼻をつないで鼓膜の内外の圧の調節を行っている管)の機能悪化が知られています。しかし原因不明の場合もあり確実な予防策はありません。いったん発症すると薬物療法は効果がなく、手術による完全摘出が必要となることから、最も厄介な中耳炎の一つです。

 手術は入院して全身麻酔で行うことが一般的です。通常は耳の後ろを大きく切開し、顕微鏡で観察しながら外耳道の皮膚を大きく剥がして鼓膜内側の手術操作を行い、真珠腫を摘出します。その後、破壊された耳小骨を何らかの形で再建する鼓室形成術と呼ばれる手術を行います。

 これに加えて、近年では耳の後ろを大きく切開しないで行う、低侵襲内視鏡下手術が急速に普及しつつあります。高画質カメラを搭載した内視鏡と、精細で高解像度な細径内視鏡の出現により可能となりました。この低侵襲内視鏡下耳科手術を、長崎大学病院でも昨年6月導入しました。鼓膜の一部に真珠腫が限局している(狭い範囲に限られている)、小さな早期の真珠腫が良い適応となります。

 実際には、耳の穴から2・7ミリメートル径の内視鏡を挿入し、高画質モニター上に鼓膜とその奥の像を鮮明に映し出して、モニター越しに手術操作を行います。鼓膜の奥の手術操作に必要な切開線は極めて小さく、外からも傷は分かりません。また顕微鏡よりも観察できる範囲が広く、病変の取り残しの危険性も少なくなりました。必要以上に皮膚や粘膜を損傷することがないため、従来の顕微鏡を用いた手術より術後の耳の中の腫れも少なく、傷の回復が早いのも大きなメリットです。

 一方で、病変の位置や大きさによっては顕微鏡の方が適している場合もありますので、どちらの術式が最適かの判断は、耳科手術専門医による検討が必要です。早期に限局した状態で真珠腫を発見することができれば、低侵襲内視鏡下手術の適応となり、聴力低下も免れることが可能となりますので、迷ったら早めの受診をお勧めします。

(長崎市坂本1丁目)長崎大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科教授  熊井 良彦

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