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2022年11月21日 掲載

「動脈硬化」

予防で若さ保ち健康に

 「人は血管とともに老いる」。17世紀のトマス・シデナム医師の言葉です。つまり、血管(動脈)が硬くなる動脈硬化を予防治療できれば、若さを保ち健康に年を重ねることができます。

 また1970年代にラッセル・ロス医師は「動脈硬化は血管の障害に対する反応」ということを突き止め、そこから「動脈硬化の原因は障害によって起きる炎症」だということが分かりました。血管の障害を防ぎ炎症を抑えることが、動脈硬化を防ぐことなのです。炎症を起こす因子として 脂質異常症 高血圧 糖尿病 喫煙 過度の飲酒 感染症 腎機能障害−が挙げられます。これらの解消が動脈硬化改善に必須です。

 動脈硬化の存在は、動脈の石灰化としてエックス線検査で発見可能です。動脈の石灰化は、肺や消化器の疾患精査のため実施したエックス線撮影やコンピューター断層撮影(CT)の画像の中に、日常的に写りこんでいます。

 ただし動脈硬化の要因は石灰化だけではありません。血管壁が柔軟性を失って拡張し瘤(こぶ)を形成すると、壁が解離したり破れたりします。また、壁にはあか(プラーク)がたまります。プラークは石灰化よりも危険です。プラークがあることで壁が肥厚し、血管が狭くなって詰まったり、血栓が形成され下流に流れて血管をまらせたりと悪さをします。

 さらにたちが悪いことに、プラークはエックス線撮影画像には写りません。造影エックス線検査をすれば発見できますが、造影は簡単にできる検査ではありません。プラーク発見には超音波エコー検査が有用です。特に頸部(けいぶ)、腹部、四肢動脈のプラークを見つけることは同検査なら容易です。

 病院を受診しなくても動脈硬化を知ることができます。1973年、サンダー・フランク医師は、耳たぶのしわが心筋を養う動脈(冠動脈)の硬化を示すことを発表しました。顔のしわは主に加齢による変化ですが、耳たぶのしわは動脈硬化の存在を教えてくれるものなのです。やせ型の人では、腹部大動脈瘤(りゅう)を自分で発見できる可能性があります。「おなかにドクドクとふれる腫瘍があります」といって、自ら受診した患者さんもいらっしゃいます。

 加齢とともに硬かった骨はもろくなり、軟らかかった血管は硬くなるという逆転現象も起きます。老化によるカルシウム代謝障害から、骨のカルシウムが血中へ流失する骨粗しょう症に加え、血管細胞は慢性炎症によって、骨細胞へと変身しており、血中カルシウムが血管に沈着して骨化が進むと考えられます。この場合、慢性腎臓病の存在は骨粗しょう症と血管石灰化の両方を促進させます。

 昨年12月、2019年の日本人の健康寿命は女性75・38歳、男性72・68歳と発表されました。血管を動脈硬化から守れば長寿が得られるという意味で、抗動脈硬化作用のあるお薬は“不老不死”を目指したお薬です。そのように考えて、血圧や脂質、糖代謝異常の薬を処方通り服用するとともに、血管の炎症を防ぐ食事・生活習慣の維持に努めましょう。

(長崎市東山手町)昭和会病院 内科医師
長崎総合科学大工学部医療工学コース 非常勤講師  松岡 弘親

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