長崎新聞健康欄
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2005年4月4日掲載

女性の尿失禁

 不随意に尿が漏れる状態である尿失禁は、男性に比べ女性で多く見られます。尿失禁は直接生命に関わるものではありませんが、日常生活の質(QOL)を著しく阻害する疾患です。現在すくなくとも日本には、四百万人以上の尿失禁罹患(りかん)者が存在すると考えられていますが、実際に医療機関を受診し、適切な治療を受けられている方はごく少数です。
 この原因として、尿失禁自体が個人の尊厳にかかわり、他人に容易に相談できない悩みであることに加えて、どの医療機関や診療科を受診すべきか分からないなどの理由が挙げられます。尿失禁は適切な診断と治療で治る病気であり、年のせいで治らないとあきらめる前に、まず近くの泌尿器科を受診されることを初めに強調したいと思います。

 尿失禁にはいくつかの種類があり、それぞれ治療法が異なるため、どの種類の尿失禁かを診断することが重要となります。以下に尿失禁の種類と治療法について説明します。

 (1)腹圧性尿失禁
 せきやくしゃみなどの腹圧をかける動作によって起こる尿失禁で最も頻度が高く、骨盤内の臓器(ぼうこう、子宮など)を支持する骨盤底筋群が緩んでくることが原因です。治療としては、軽度では@骨盤底筋体操A薬物療法B電気刺激療法−などが有効です。骨盤底筋群は手足の筋肉と同じもので、締めたり、緩めたりすることで強化可能です。ただし、ある程度の効果がみられるまでには、六−八週間続けることが必要です。重症では手術療法が必要で、プロリンテープを用いて尿道中部を支えるTVT法という手術方法が長期成績もよく、現在一般的に行われています。

 (2)切迫性尿失禁
 トイレまで我慢できずに尿が漏れるタイプで不随意のぼうこう収縮(無抑制収縮)が原因で強い尿意(尿意切迫感)を伴います。脳血管障害などの神経の病気でみられますが、原因不明の場合も少なくありません。治療は、無抑制収縮を抑える薬物療法が有効で、電気刺激療法などが有効の場合もあります。

 (3)混合性尿失禁
 腹圧性と切迫性尿失禁が合併している場合で腹圧性尿失禁の約20%にみられ、両方の治療が必要です。

 (4)溢流(いつりゅう)性尿失禁
 尿排出ができず残尿が多い状態が続くと、トイレが近くなるとともに少し動いただけで尿失禁がみられます。残尿が多い原因を調べ、その治療が必要となります。

 (5)機能性尿失禁
 認知(痴呆)症や身体運動障害のため、自力でトイレでの排尿ができない方にみられる尿失禁で、おむつ排尿といわれます。この場合、排尿誘導と介助が必須で、そのためには@人手A環境整備B行政などの社会的援助−が必要となってきます。

 最後に、尿失禁があり、下着だけでは不安でパットなどが必要な方は、近くの泌尿器科を受診することをお勧めします。

(長崎市松が枝町、南長崎クリニック泌尿器科  鈴 博司)
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