長崎新聞健康欄
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2005年4月18日掲載

慢性胃炎の新しい考え方

昔から上腹部のさまざまな症状に対し、慢性胃炎の診断がつけられ、治療されてきました。現在では診断、治療法の進歩により一口に慢性胃炎といっても、(1)ピロリ菌による慢性の炎症に伴う症状(2)逆流性食道炎に随伴した症状(3)胃の運動異常に伴う症状に区分されつつあります。
 このうちピロリ菌による炎症と逆流性食道炎は、胃内視鏡検査により比較的容易に診断できるようになり、それぞれ除菌療法、制酸剤投与と治療法も確立されています。しかし、胃の運動以上は今も保険で認められた的確な検査法がなく、いまだに医師の経験に基づく診断がなされています。

 見た目には一つに見える胃も、食後には拡張して食べたものを蓄える胃体部(胃の上方2/3)と収縮することにより消化された食物を十二指腸へ送り出す胃前庭部(胃の下方1/3)に分けることができます。
 胃の筋肉(平滑筋)の収縮力にも当然差があり、犬を使った研究で、胃前庭部が胃体部の約二倍あることが分かっています。

 胃の筋肉も心臓と同じく自動運動があり、食後はもちろん、空腹時も常に収縮を繰り返しています。自動運動のためのペースメーカーが食堂下端にあると想定され、通常一分間におよそ三・五回の収縮を行っています。
 この収縮はさまざまな要因、ストレスなどの心因性や糖尿病などの疾患、服用しているお薬などで変化します。胃は思った以上にストレスに弱い臓器です。心臓と同じく胃の不整脈もあります。胃電図なる検査もありますが、現在研究的にしか行われていません。胃の運動能力を見るためエコーやアイソトープを用いた胃排出検査も研究されましたが、実用化(保険が認める検査)には至りませんでした。
 このような検査は、例えば「胃がもたれる」「空腹感がない」といった上腹部不定愁訴の方や神経性胃炎などの診断に必要でした。がんなどと違い、あまり命に別状がないことから十分な研究がなされなかった気がします。

 しかし生活レベルの向上に伴い、より質の高い生活(QOL)のためには今後の研究が待たれます。ストレスが大いに関係するこの病気は、今後増加するものと思われます。現在ではこれらの胃運動機能に基づく疾患に対しFD(functional dys Pepsia)の病名が提唱され、これらの症状を持つ方につけられつつあります。よく胃カメラなどで何も異常がないが、上腹部が痛いという方はこの疾患が考えられます。
 FDの治療は現在のところ確実な診断法がないため、ほかの明らかな疾病、例えば胃かいようや胆石、慢性すい炎などを除外し、経験に基づき心療内科とも連携の上で、症状に沿った適切なお薬を選択しつつ行っています。

(長崎市桶屋町 浦クリニック院長  浦 一秀)
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