長崎新聞健康欄
前の記事へ 記事一覧へ 次の記事へ

2006年8月7日掲載

「人生」 守護的・計画的に


 「人生守護」。これはある大学生がコンドームにつけた別名です。お守りのようなパッケージに包まれ、「人生守護お守り」などと奉られると、コンドームも通販やドラッグストアでこそこそ買われるより気分がいいでしょう。

 性的な触れ合いは、体の中の特殊な皮膚「粘膜」の触れ合いです。粘膜は傷つきやすく、性感染症の成立するところです。コンドームはその傷つきやすい粘膜を守り、性感染症や避妊に効果を発揮します。自分を守り、パートナーを守る本当の「守護」といえます。

 先日、あるテレビ番組で荻野久作が取り上げられていました。あの有名な「オギノ式避妊」に結びついた発見をした世界に名だたる産婦人科医です。ほぼ百年前、新潟の一産婦人科医として「産めない」女性の悲痛な願いを聞き、また、その反対に多産の中で命を落とす女性たちの姿に心を痛めた博士は、妊娠しやすい日、すなわち排卵がいつなのかを突き止める決意をします。その当時は、最終月経を聞かれることすら女性たちが恥ずかしく思う時代で、荻野博士の苦労が印象的でした。

 いまや排卵という現象は、基礎体温という古典的な方法はもとより、ホルモン検査や超音波などでもかなりつかめるようになり、不妊症治療は飛躍的に進化しました。でも依然として変わらないのは、人生計画的でないことです。できちゃった婚の割合は年々増加し、特に若い年齢層のできちゃった婚は経済的・人間関係的基盤の薄さのために、虐待につながることも指摘されています。

 欧米に遅れること四十年、日本で七年前に認可された低用量ピル(OC)の国内普及率は1.3%(二〇〇〇年、十五―四十九歳女性)です。ドイツ59%、米国は16%で、日本のこの異常ともいえる低さは、ピルへの「怖い」「太る」といった思い込みもその一因です。OCは以前のピルと比べると、そのホルモン量は半分程度になっています。すでにその安全性は世界的に確立され、今年、日本のOC処方についてのガイドラインも緩和の方向性が明確に打ち出されました。

 「月経が数日遅れると不安でしょうがない」「妊娠反応が陰性と分かったときに涙がこみ上げてくる」―こんな気持ちは恐らく女性にしか分からないと思います。それに対して、OCは安心感を女性に与えます。OCを中止すると排卵は回復され、計画的に妊娠できます。四十代の内膜症の女性がOCで月経痛を緩和できたように、副効用があることももっと知られていいと思います。

 人生守護的=ライフセーバーとしてのコンドーム、人生計画的=ライフデザインとしてのOCというツールを使える時代に私たちはいます。避妊を語れる女性、そのことをパートナーとして理解・協力する男性、その選択に助言を与え見守る産婦人科医―そんな時代の到来を、荻野博士に報告できる日が早く来ることを願っています。

(長崎市銅座町、やすひウィメンズ・ヘルス クリニック院長 安日泰子)
>>健康コラムに戻る

前の記事へ 記事一覧へ 次の記事へ