長崎新聞健康欄
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2006年7月17日掲載

耳閉感が気になりませんか


 耳は外耳(外耳道)、中耳(鼓膜、耳小骨、鼓膜の奥の空間である鼓室、鼓室と鼻とを交通する耳管)と内耳(音の振動を神経信号に変える蝸牛〈かぎゅう〉、体のつり合いにかかわる三半規管や耳石器)からなります。耳が詰まった感じがする「耳閉感」は外耳、中耳、内耳のいずれからも起こり、それぞれ原因が異なっています。外耳では耳垢(じこう)で外耳道が詰まってしまった場合、中耳では耳管の障害(耳管狭窄〈きょうさく〉症と耳管開放症)、内耳ではメニエール病や低音障害型感音難聴などの病気で耳閉感が起こります。従って、耳閉感の原因を明らかにして治療を行うことが大切です。

 耳垢は外耳道や鼓膜の観察で容易に診断され、耳垢除去によって耳閉感は消失します。内耳の障害は耳閉感以外にめまいや音響過敏などの症状を自覚し、聴力検査で特徴的な難聴がみられ、薬物療法がまず行われます。

 耳管狭窄症と耳管開放症は耳閉感を来す代表的な病気です。自覚的な症状は似ていますが、病態と治療は全く異なっているので鑑別が重要です。

 乗っている電車がトンネルに入ると、外気圧が強まり鼓膜が内側に押されて耳閉感が起こります。その時、つばを飲み込むと耳閉感が取れます。これはつばを飲み込むと普段閉じている耳管が開いて、外気が鼻から鼓室に入り、押されていた鼓膜が元に戻るためです。このように正常の耳管は中耳の圧の調節をしています。

 耳管狭窄症(あるいは滲出〈しんしゅつ〉性中耳炎)は幼少児や年配の方にみられます。鼻風邪をひくと鼻から続く耳管の粘膜も腫れてしまい、つばを飲み込んでも耳管は開かなくなります。次第に鼓室の気体が吸収され鼓膜が引っ込み、さらに鼓室に液体がたまってきて耳閉感や難聴を自覚します。診断には鼓膜の観察だけでなく、鼓膜の動きや鼓室に液体がたまっていることが推測できる検査であるティンパノメトリーが有用です。治療は鼻から鼓室に空気を通す通気治療や、症状が強い場合鼓膜を切開したりチューブを挿入したりします。

 一方、何かの原因で耳管が開きっ放しになった場合を耳管開放症といいます。耳閉感とともに自分の声や呼吸の音が、開いた耳管を通って耳に入り、自声強聴が起こります。また、座っていたり立っていると症状がありますが、寝たり頭を下げると症状が軽くなります。これは頭を下げると耳管周囲の静脈叢(そう)が充血して開きっぱなしの耳管が閉じてくるためです。鼻から音を入れて外耳道から音を記録する耳管機能検査を行うと、正常では嚥下(えんげ)によって耳管が一瞬開いた時に音が聞かれますが、耳管開放症では嚥下後もしばらく音が聞かれます。中耳疾患に伴ったり、急に体重が減った時や妊娠中に多くみられます。治療は生理的食塩水を点鼻すると開いた耳管に食塩水が入り、症状が軽快します。重症の場合は手術的な治療もあります。

(長崎市扇町、重野耳鼻咽喉科@めまい・難聴クリニック院長 重野 浩一郎)
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