長崎新聞健康欄
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2006年9月4日掲載

中高齢者の肩痛
〜10月8日は骨と関節の日〜

 肩痛は腰痛、ひざ痛と並んで中高齢者に多く見られる症状の一つです。一般に肩痛といっても肩甲骨周囲筋の痛みや凝りなど頚椎(けいつい)からくるものから、肩関節自体の疾患によるものまで幅広く存在します。今回は肩関節の疾患について説明します。

 肩関節は上腕骨、肩甲骨、鎖骨から構成され、中でも上腕骨と肩甲骨の間の動きが最も大きく、また、障害の起きやすい部分です。肩甲骨から上腕骨には腱板(けんばん)と呼ばれる四つの筋が上腕骨頭を覆うようにして付着しており、肩の運動に重要な役割を果たしています。中高年になると腱板や関節周囲組織に変性を生じ、いろいろな疾患が発症します。

 (1)五十肩@中年以降に発症する、明らかな起因が分からない肩の疼(とう)痛と肩が上がらないといった運動制限(拘縮)を生じる疾患です。五十歳代を中心に見られ、女性にやや多い傾向があります。初期は疼痛が強い時期で、痛みのため種々の動作が障害され、睡眠障害を来すようになります。

 治療は三角巾などで局所の安静を図り、消炎鎮痛剤を用います。肩関節に痛み止めの注射を行うこともあり、疼痛が軽減したら、可動域改善訓練を無理のない程度に行います。進行すると結髪動作や結帯動作の障害が明らかとなるので、この時期では温熱療法と積極的な可動域改善訓練を行います。ヒアルロン酸を肩関節に注入したり、神経ブロックを併用する場合もあります。一、二年の間に治癒するといわれますが、中には強い拘縮が残ることがあり、そのような例には全身麻酔下で手術を行うことがあります。

 (2)腱板断裂@中年以降になると腱板の変性が進行し断裂しやすくなります。明らかな外傷の既往がある場合とない場合があり、肩の動作時痛や夜間痛で上肢が挙上できないケースもあります。関節造影や磁気共鳴画像装置(MRI)などでの検査で容易に診断できます。五十肩といわれている患者さんの中には腱板が断裂していることがあり、手を挙げる時にクツクツと肩関節に引っ掛かりを感じたり、挙上する力が弱い場合などは断裂を疑う必要があります。

  治療としては疼痛に対して鎮痛剤の投与や肩関節内に注射をし、同時に挙上訓練を行いますが、断裂した腱板は一般に自然修復しにくいため、症状が強く日常生活や仕事に障害がある場合には手術が必要となります。最近は関節鏡を使った手術も行われています。

 (3)石灰性腱炎@腱板に沈着したカルシウム塩によって急性炎症を起こす疾患です。中年の女性に多く、激しい痛みが特徴で睡眠は妨げられ、肩の動きがほとんど不可能となります。エックス線検査で石灰が認められれば診断がつきます。疼痛に対しては肩関節への局所麻酔剤とステロイドの注射が効果的です。一回から数回の注射で症状は軽快することが多く、おおむね予後は良好です。 

  以上、中高齢者に生じる肩痛の原因となる代表的な疾患について述べましたが、正しく診断してもらい、適切な治療を受けるためには整形外科医に相談されることをお勧めします。

(長崎市坂本一丁目、長崎大医学部整形外科講師 衛藤 正雄)
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