長崎新聞健康欄
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2006年9月18日掲載

肩のスポーツ障害
〜10月8日は骨と関節の日〜

 肩のスポーツ傷害は、大きな外力が加わることで起こる骨折、脱臼などの「外傷」と、投球動作などの繰り返し運動により起こる「障害」とに分けることができます。

  外傷では、肩鎖関節脱臼、鎖骨骨折、肩関節脱臼などによく遭遇します。前者の二疾患は、横向きに肩から転倒することで受傷し、直後から腕を上げることができないほどの強い痛みを伴います。治療法には、固定装具を用いた保存的治療と手術を行う方法とがあり、個々のケースに応じて決定する必要があります。

 肩関節脱臼は、ラグビーなど激しいコンタクトスポーツで受傷することが多く、肩関節外転外旋(万歳した状態)を強制されることによって起こる場合がほとんどです。脱臼した肩関節は早急に整復する必要がありますが、乱暴な整復は骨折を引き起こすこともあり注意を要します。また、軽微な力で脱臼を繰り返す「反復性肩関節脱臼」としてくせになりやすく、その後のスポーツ活動ばかりでなく日常生活にも支障を来し、手術(現在は関節鏡を使った手術が行われます)が必要となることも多く認めます。近年、肩外旋位(前腕を外に開いた位置)に固定すると反復性になる割合が下がることが分かり、脱臼整復後の初期治療は予後を左右する重要な要素です。肩関節の脱臼は整復できたら終わりではありません。

 野球、テニス、バレー、陸上の投てき競技、水泳などは、肩の障害が特に発生しやすい競技です。投球、サーブ、スパイク動作などが繰り返されるためで、肩関節を構成する骨、腱(けん)、関節唇などさまざまな部位に障害を起こし得ます。腱板や関節唇の損傷、滑膜の炎症、関節の変形、関節包・靱帯の癒着や断裂等々多岐にわたります。障害発生は投球のし過ぎなどのオーバーユース以外に、コンディション不良や不適当なフォームも原因と考えられており、障害の部位・原因を正しく診断し治療する必要があります。磁気共鳴画像装置(MRI)は有用な検査ですが、関節造影を併用するとその診断率はさらに上げることができます。

 治療は、インナーマッスルを中心とした筋力訓練や肩関節および全身の可動域改善訓練などのリハビリテーションを行い、全身運動としてのオーバーヘッドモーションを円滑に行えるように訓練します。それでも症状が残る場合、関節鏡を用いた手術が必要となります。

  また、発育期では上腕骨の近位端に成長軟骨があるため、投げ過ぎによるオーバーユースによって軟骨部を骨折することがあります。これをリトルリーグショルダーといい、数カ月にわたり、投球制限が必要になります。

 肩関節は、人間の関節の中で最も大きな可動域を持つ重要な関節です。その傷害はスポーツを断念させられるばかりでなく、日常生活にも悪影響を及ぼすこともあります。正しい診断の下、適切な治療を受ける必要があります。医療機関を受診し整形外科医の診察・治療を受けることをお勧めします。

(長崎市坂本一丁目、長崎大医学部整形外科医師 古川 敬三)
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