長崎新聞健康欄
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2008年9月15日掲載

大腿骨頸部骨折


 超高齢社会に突入しようとしていますが、終生健やかに体を動かせるようにし、生活の質を維持することは何より大切なことです。そのため、年齢とともにバランス能力や移動歩行能力が低下し、閉じこもり、転倒のリスクが高まった状態を「運動器不安定症」と定義し、診断、治療する必要性が指摘されています。

 骨粗しょう症を有する高齢者は、転倒した際に背骨や肩、手首、脚などを骨折することが珍しくありません。中でも太ももの付け根「大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)」の骨折は、寝たきりになる可能性が高いので特に注意が必要です。
 大腿骨は骨盤とつないでいる股(こ)関節の近くで骨折すると、痛みが強く、立って歩くことはもちろん、座ったり、寝
返りを打ったりすることもできなくなります。寝たきりとなり、生命にかかわるさまざまな疾患(肺炎、床擦れ、認知症など)を併発する危険性が高まります。

 一般的に骨折の治療法は、手術で骨折部を切開し、金属のプレートやワイヤ、ピンなどを使って骨を接合する「内固定」と、手術せずに外側からギプスなどで固める「外固定」があります。大腿骨頸部骨折の痛みを軽減して体を動かせる状態にするためには、できるだけ早期に手術、リハビリに取り組むことが重要です。

 手術法は骨折の部位、折れ方によって最適な方法が選択されます。

 股関節からやや離れた外側の転子部(脚の付け根の横に触れる骨の出っ張り部分)の骨折に対しては、大きなねじやプレート、髄内釘(ずいないてい)を用いて骨をつなぎます。

 股関節近く(頸部内側)の骨折に対しては二種類の方法があります。一つはフック付きのピンやねじを用いた骨接合術で、もう一つは人工骨に入れ替える人工骨頭置換です。どちらの手術法も安定した治療成績が得られており、患者の状態に応じて選択します。

 手術に際しては高齢者はさまざまな内科疾患を有し服薬していることが多いため、事前に検査や手術時のリスクについて考慮しておく必要があります。

 無事、手術が終了したら、リハビリが本格的に始まります。以前に比べベッドで安静にする期間は大幅に短くなっており、状態が安定していれば手術後一−二日で車いすに移乗し、一−二週間で起立訓練を始めます。医師、看護師、理学療法士が緊密に連絡を取り合いながら離床を進めますが、家族の精神的な支えも大切です。

 リハビリの目標は在宅に戻ることです。しかし、長崎市などでは階段や坂道が多く、歩行機能を回復し環境に適応できるようになるまでには時間がかかります。

 長期に及ぶリハビリについて、厚生労働省は手術を行う急性期病院と、その後のリハビリを受け持つ回復期リハビリ病院との間で連携するよう勧めています。長崎市内でも複数の病院が「地域連携室」を設置して連携態勢を取っており、患者を全力で支援しています。

 日本整形外科学会は、運動器官が健康の維持にいかに大切かを認識してもらうため、十月八日を「骨と関節の日」と定め、大腿骨頸部骨折の全国調査をして治療方針を作成しています。高齢者が転倒したときは早めに地域の整形外科に相談してください。

(長崎市籠町、十善会病院整形外科部長  小田 純爾)
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