長崎新聞健康欄
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2008年9月1日掲載

骨粗しょう症について


 運動器不安定症とは、高齢化により、バランス機能および移動能力の低下が生じ、閉じこもり、転倒のリスクが高まった状態をいいます。運動機能も低下するわけですが、その原因の一つが骨粗しょう症です。

 骨粗しょう症は骨がスカスカになり、骨折しやすくなる病気です。しかも骨全体が弱くなって骨折するため、治癒に長期間を要します。骨折が原因で日常生活動作(ADL)の低下を来し、寝たきりとなってしまうことが大きな問題です。

 さらに骨折の治療のための時間、人手、費用などの社会的損失は巨額なものになります。わが国の骨粗しょう症患者は女性で約八百万人、男性で約二百万人、計一千万人と推定されています。二〇二〇年には六十五歳以上が全人口の約30%を占めることを考えると、その影響は深刻で、予防策が重要となりました。

 骨粗しょう症は高齢社会の進展に伴い、増加する傾向にあります。ステロイド剤の服用や内分泌疾患、胃切除後に生じる続発性のものもありますが、大多数は閉経と加齢によるものです。女性はホルモンバランスが大きく変化する閉経後に骨量が急激に減るため、骨粗しょう症の割合が高くなります。男性は女性に比べるとその割合は低いものの、加齢とともに腸管からのカルシウム吸収が低下するため、七十歳を過ぎると骨粗しょう症が増えるのです。

 骨粗しょう症になっても初期段階では自覚症状が全くありません。進行するにつれて腰背部痛、骨折、円背(背中が丸くなる変形)を生じます。特に円背では、体の重心線が前方に移動し前傾姿勢になるため、バランスを崩しやすく転倒する頻度が増します。さらには長距離歩行が困難、上を向いて安眠できない−などのADLの低下ももたらします。

 そこで高齢者は骨粗しょう症検診(エックス線撮影、骨密度測定)を積極的に受け、骨の状態を評価することが重要です。通常のエックス線写真に加え、最近は超音波検査やエックス線による光子吸収測定法で定量的に骨密度を計測できるようになりました。検査自体は五分程度で済み、痛みもありません。

 検査結果で、骨密度が若いころの70%以下なら治療の対象となり、80−90%では食事と運動を指導します。食生活についてはカルシウムに富んだ乳製品・大豆製品、良質なタンパク質である肉・魚を摂取する一方、塩分や糖分、酒、コーヒー、たばこを控えることが基本となります。

 骨折の原因の大半は転倒です。転ばないために、運動によって足腰の筋肉強化、バランス感覚の改善を図るほか、つえを使用したり、室内の整理整頓をしたりして、つまずかないようにすることが重要です。日光浴も大切です。

 骨粗しょう症の予防・治療の第一歩は日常生活を健康的に送ることです。健康に注意し、痛みのない、骨折の心配のない生活を送りましょう。来月八日は「骨と関節の日」です。これを機に整形外科専門医を受診されてはいかがでしょうか。

(島原市下川尻町、いとう整形外科 院長  伊東 大介)
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