病気一口メモ

『潰瘍だけじゃないピロリ菌』

東彼杵郡医師会  岡部 信和

 


 胃潰瘍以外にピロリ菌感染と大いに関連があるとされている病気は胃癌、鉄剤医療でも治らない鉄欠乏症貧血、本態製血小板減少性紫斑病、酷い口臭、及びMALリンパ腫と呼ばれる腫瘍です。更にある種の顔面紅斑、慢性蕁麻疹、虚血性心疾患、慢性疲労症候群なども関連が推測されています。
 その語感の可愛らしさ故かたちまち人々の脳裏に染込んだピロリ菌ですが人類にとっては有難くない存在です。1982年、強酸性の胃の中は無菌的だと医学の通説を翻しリコバクター・ピロリと命名された最近が胃の粘膜内にぬくぬくと生きている事実がDr.マーシャルらにより確認されました。彼は持論を説得、証明する為自らピロリ菌を飲み込んだのです。この時を境に代表的消化器疾患は感染症へのひとつへと華麗なる変身を遂げました。
 このピロリ菌(HP)は1000分の4mm(赤血球直径の3分の2)位の長さで「くの字」型、鞭毛という尻尾を数本持つ細菌です。自らが持つ酵素でアルカリ物質を作り出し
pH2という強い胃液から身を守り胃壁の粘膜細胞の辺りにpH7の居心地のいい環境を確保しているそうです。地球人口の半分は感染しているとされ、日本では年齢が上がるにつれて感染率が高くなります。感染者の大便からHPが培養可能なことからその感染経路は便から口へと考えられています。従って衛生環境のよい国ほど感染率は低いというデータです。
 潰瘍から出血すれば当然貧血になりますが萎縮性胃炎からの目に見えない滲み出る出血や胃酸低下により鉄吸収阻害が貧血の原因と考えられるHP菌の除菌(薬で菌を退治する事)による改善が確認されています。血小板減少についても増加した血小板に対する抵抗が除菌により減少し血小板数の回復をみると報告されています。酷い口臭にも除菌効果ありと上述、Dr.マーシャルのホーム・ページに書いてあります。
 現在HP菌の除菌には保険診療上の制約や治療後の胃腸症状など課題があります。ご相談先はやはり消化器科となります。

 


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