病気一口メモ

心的外傷後ストレス障害について

 小鳥居病院 小鳥居Dr



PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは各種の災害、戦争、テロ及びホロコースト、事故、暴力犯罪、性暴力、虐待などにより強度の身の危険および、恐怖感や無力感を伴う体験が心の傷となることで生じるストレス症候群のことです。
 近年の日本の代表的なものとしては地下鉄サリン事件や阪神大震災、普賢岳の噴火などが挙げられます。記憶に新しいところでは、ハワイ沖でのえひめ丸事件、ニューヨークの同時多発テロなどです。
 症状としては再体験症状(出来事の不快で苦痛な記憶が侵入的回想〔フラッシュバック〕や夢の形でくり返し蘇る。何かのきっかけでそのことを思い出したときに不快感や不安感、動悸や冷汗などが出現する。)回避症状(出来事に関連した思考や会話、あるいは場所や事物を極力避けようとする。出来事に記憶に曖昧な部分がある。日常生活上の興味や関心、自然な感情が希薄となる。孤立感や厭世感を感じる。)覚醒亢進症状(不眠症、いらいらして怒りっぽい、事物に集中できない、何事にも必要以上に警戒する、ちょっとした物音などの刺激にたいしてもひどく神経質になる。)などがあります。それらの症状が1か月以上続き主観的な苦痛や社会、生活機能上に支障が認められる場合、通常PTSDと診断されます。
 患者さんはその出来事を思い出したくない理解してもらえないという気持ちから症状があってもただひたすら我慢していることが少なくありません。
 治療としては、まず症状の訴えを受け止めて、それらが心的外傷による症状であることをよく説明し、症状への不安感を緩和することが第一です。更にPTSDの症状は周囲の理解を得にくいことが多いため家族にも充分に説明することが重要です。通常、私達精神科医は精神療法と薬物療法を併用して治療を行います。
 一般的にPTSDは外傷後、数週〜数ヶ月を経た後に症状が発現し動揺性の経過をたどり、ほんのごく稀に慢性となることもありますが通常、予後はほぼ良好です。
 以上PTSDについての説明をしましたが日常大人が子供に対して、或いは上司が部下に対して一生懸命頑張っているのに、何気なく「お前は才能がない」「怠け者」などと言った場合、何時までも心の傷として残り,前記のような症状が出現することも日常の臨床現場でよく体験します。これもPTSDといえるでしょう。
 大人は子供に、上司は部下に思いやる愛情があればこのようなPTSDは防ぐことが出来るのではないかと考えます。厳しい社会、経済状況の中つい気持ちも不安定になり勝ちですが今一番大切なことはお互いの思いやりの心だと思います。


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