長崎新聞健康欄
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2005年5月2日掲載

ストレスによる胃腸障害


 「胃が痛い」「胃がもたれる」「頻繁に下痢や便秘をする」などの消化器症状を訴えて来院される患者さんの胃や大腸を内視鏡(カメラ)やレントゲン撮影で調べると、まったく異常がない場合があります。このような病態は機能性胃腸症・過敏性腸症候群と呼ばれ、近年、日本や欧米などの先進諸国で急激に増加しています。
  機能性胃腸症は比較的新しい疾患概念で、初めて耳にした方も多いと思います。従来は神経性胃炎や慢性胃炎として診断されていた病気に相当し、上腹部の症状で消化器専門医を受診する患者さんの半数以上がこの病気だろうと推測されます。

 胃や大腸はストレスを受けやすい臓器です。前述の症状を訴える患者さんの多くは仕事や家庭内でのストレスが積み重なった結果、胃や大腸に機能異常を来し腹痛や下痢・便秘などの症状が出現したことが推測されます。機能性胃腸症の症状としては胃の痛み、胃もたれ、上腹部の膨満感、食欲不振などが多いようです。がんや消化性かいようなどと異なり、放置しても命にかかわることはまれですが、これらの症状がさらなるストレスとなり、症状を悪化させることになります。
 血液検査や内視鏡(胃カメラ)、胃腸透視などは異常所見を認めず無力です。機能性胃腸症はその人の生活スタイルや性格などに起因する病気で、診断にさいしては時間をかけて詳しく病状や生活状況を聞きだす必要があります。うつ病を合併している場合も見られ、診断には数週間を要することもあります。機能性胃腸症の本態は食べ物を消化する胃の本来の動きが円滑にできなくなったと考えればよいでしょう。@胃のぜん動運動の低下A胃酸の過剰分泌B食道方向への胃酸の逆流―がもたれ感や痛みの原因として考えられています。

 治療としては食事を含めた日常生活の改善が必要です。食事は毎日決まった時間に一日三回三十分以上の時間をかけて食べることが基本です。脂っこい食べ物やお菓子は胃の円滑な運動を妨げ胃酸の分泌を増やすので控えめにしましょう。アルコールは少量(ビールなら一日に大瓶一本まで)ならばストレスの解消や食欲を改善する効果がありますが、深酒は厳禁。軽めの運動もストレス発散や胃の円滑な動きを促すのでお勧めです。薬は最終手段ですが症状を緩和するくらいに考えてください。胃の蠕動運動を助ける薬を主体に処方します。精神安定剤を加えることもあります。

 機能性胃腸症は人間社会の営みの中で生まれた病気です。対人関係で生じる必要以上のストレスはさまざまな症状を引き起こします。腹痛などの症状を経験すると、次はいつ再発するだろうかという不安がストレスとなって症状を悪化させる、という悪循環を引き起こします。この病気はストレスの悪循環を断ち切ることが大切です。そのためには機能性胃腸症という病気を理解し、肩の力を少し抜いて病気と付き合っていく気持ちが必要でしょう。

(長崎市銅座町、たじま内科消化器科院長 田島平一郎)
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