長崎新聞健康欄
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2005年6月6日掲載

増え続ける糖尿病


 最近、わが国で急増している病気の一つに糖尿病があります。厚生労働省の新しい統計では、糖尿病が強く疑われる人は七百四十万人。その可能性を否定できない人と合わせると千六百二十万人と推計されています。全人口の実に七人に一人という驚くべき数字です。

 これは、生活が豊かで便利になり、過食、美食、食習慣の欧米化、運動不足などが原因と考えられ、車の普及台数に比例して糖尿病は増加するともいわれています。また、技術の発展により仕事は一見楽になりましたが、逆にストレスは増加する一方で、そういったことも増加の背景にあると考えられます。

 糖尿病は、膵臓(すいぞう)からのインスリン分泌が不十分であったり、その働きが悪くなるために、血液中のブドウ糖が利用されずに血液中に増え(高血糖)、尿中にも糖が出る病気です。遺伝的に糖尿病になりやすい体質がありますが、特に問題なのは四十歳前後の運動不足になりやすい管理職の人々です。「朝抜き、昼そば、夜どか食い」で、夜遅く脂っこいスタミナ食を食べて寝てしまっているようでは肥満を起こすとともに、内臓脂肪も蓄積されます。それが問題なのです。

 人種的に、日本人は欧米人と比べてインスリンの分泌能力が低いのです。大量の夜食でも初めのうちは、多量のインスリンを分泌してブドウ糖の処理を行います。内臓脂肪などが多いと、インスリンの働きに対する抵抗性が生じて、インスリンの働きが悪くなり、その分泌量も限界にきて、糖尿病になるのです。

 糖尿病になっても、最初のうちはただ血糖値が高いだけで何の症状もなく、つい放置しがちです。気付いた時には、合併症が起こってしまっている。昔から毛細血管など細小血管の障害による三大合併症が有名です。目の網膜の障害による失明、腎障害による尿毒症(人工透析が必要)、末梢(まっしょう)神経障害で、行き着く先は足の壊疽(えそ)です。

 それだけでなく、大きい血管の動脈硬化も進展します。生命を左右する心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞の原因として重要です。軽症の糖尿病や、糖尿病になる確率が高い境界型糖尿病があっても、同様の危険性を持っています。
 糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満などの生活習慣病は、同一人に合併する傾向があり、インスリン抵抗性を軸として相互に影響し合うので、最近はメタボリックシンドロームと呼びます。

 糖尿病の治療の基本は、食事療法と運動療法です。主治医や栄養士から十分指導を受けて取り組んでください。肥満していた体重が標準化し、運動により筋肉の代謝が活発になると、インスリン抵抗性の解消に役立ち、血糖値も下がってきます。

 それでも血糖値などが正常化しない場合には病態に応じた薬剤が処方されます。高血糖で糖毒性が激しい場合には、インスリン注射も必要です。要は、血糖の正常化により、合併症を防止する。正しい治療を続けて、合併症のない明るい人生を過ごしましょう。

(長崎市岩川町、山田内科院長 山田久)
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