長崎新聞健康欄
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2005年6月20日掲載

梅雨期の子どもの皮膚疾患


 いよいよ梅雨に入り、じめじめとした蒸し暑い、暮らしにくい日々が続きます。この時季に子どもがよくかかる皮膚疾患は、高温多湿なので感染症が多く、乳幼児期には「あせも」から発展する汗腺膿瘍(のうよう)=「あせものより」、小児期までは伝染性膿痂疹(のうかしん)=「とびひ」などがよくみられます。

 「あせも」は汗が蒸発しにくい間擦部(ひじ、ひざの内側、首の前面など)、オムツ部、被髪部などに好発します。皮膚は上から順に表皮、真皮、皮下組織の三層からなっており、汗は真皮の深いところにあるエクリン汗腺という器官でつくられ、細い管(汗管)を通って出口(汗孔)から外界に排せつされます。あせもはこの流れが何らかの原因で停滞した結果、内圧が上昇し汗管が破れて周囲に汗が漏れ出ることにより生じます。かゆみを伴うことが多いため、放置するとかきむしることにより湿疹(しっしん)化したり、細菌感染を起こしやすくなります。

 「あせものより」は主に乳幼児の頭部、顔面、臀部(でんぶ)、背部などに生じたあせもに黄色ブドウ球菌が感染、真皮の深いところで炎症を引き起こします。強い痛みやリンパ節腫脹(しゅちょう)を伴うことが多く、深在性の皮膚感染症として抗生物質の全身投与が必要となります。あせもを予防するには風通しのよい涼しい環境を保ち、入浴やシャワー浴を繰り返し、よく泡立てたせっけんで優しく身体を洗うことが大切です。衣類は吸湿性、通気性のよい木綿の素材を着用します。ベビーパウダーはあまり効果がなく、かえって汗孔をつまらせてしまう場合があるため控えたほうがよいでしょう。治療はかゆみが強ければ抗ヒスタミン薬の内服、炎症が強ければマイルドクラスのステロイド軟こうを使用します。いずれにしても予防が大切です。

 「とびひ」は小児期までによくみられる表皮内の細菌感染症です。基礎疾患としてアトピー性皮膚炎や虫刺されなどのかゆみの強い病変を合併していることが多く、臨床的には黄色ブドウ球菌による水疱(すいほう)性膿痂疹、化膿レンサ球菌による非水疱性膿痂疹に分類されます。水疱性は六歳までの乳幼児に多くみられ、夏季に発症しやすい一方、非水疱性は季節や年齢にはあまり関係なく、時に発熱や糸球体腎炎を合併することがあるので注意が必要です。いずれも自分だけでなく他人への感染力が強いため早期の診断と治療を要します。近年は通常の抗生物質が効きにくいメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)によるとびひが増えており、適切な抗生物質の選択が重要です。化膿レンサ球菌による場合は腎炎の合併や再発予防のため、皮疹(ひしん)の軽快後も十日間前後の抗生物質内服を続けたほうがよいでしょう。局所療法としてはいずれの場合もシャワー浴で皮疹部を洗浄し、抗生物質含有軟こうの外用を、皮疹が乾燥し、かさぶたが取れるまで続けます。

 いずれの感染症も重症化させないためには、早期の診断治療が求められます。予防には生活環境を整え、基礎疾患をきちんと治療し、スキンケアに努めることが大切です。

(長崎市築町、大神皮フ科院長 大神太郎)
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