長崎新聞健康欄
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2005年8月1日掲載

赤ちゃんの「聞こえ」と「言葉」


 皆さんは、赤ちゃんや子どもの「聞こえ」と「言葉」について考えたことがおありでしょうか?

 私たちは生まれてから、聞く、話す、読む、書くなどの言語行動を順に獲得し、社会生活、精神生活を豊かにしていきます。赤ちゃんは生まれてきてから数年の間に、特別な努力をすることもなく、自分を取り巻く言葉の環境に接するだけで、言葉を話せるようになります。 複雑な言葉を理解するには、赤ちゃんに何らかの情報が入ってこないといけません。情報の入力方法としては聴覚(聞く)、視覚(見る)、触覚(触る)などが用いられています。正常な聞こえを持った赤ちゃんは、聴覚を主な情報の入力方法として活用し言葉を獲得するので、聴覚は乳幼児期には極めて重要となります。

 さて、赤ちゃんを含め私たちの耳はどのようにして音や言葉を聞くかご存じでしょうか?
 音や言葉は外耳道を通り、鼓膜を振動させます。鼓膜の奥(中耳)には三つの小さな骨があり、鼓膜の振動によりこの三つの骨も振動し、さらに奥にある蝸牛(かぎゅう)へと伝わります。この蝸牛では、振動による波の信号を電気信号に変え、神経を伝わって、脳に送られ、初めて私たちは音や言葉を認識します。

 赤ちゃんや子どもの難聴の場合、一般の耳鼻咽喉(いんこう)科では鼓膜までの病気(耳あかや中耳炎など)による難聴は診断しやすいのですが、蝸牛から奥が原因となった難聴は、なかなか診断が難しく、二―三歳ごろに言葉の遅れなどで気付くことがほとんどでした。ただし最近、蝸牛から奥が原因となった難聴の場合でも、赤ちゃんが眠っている間のわずかの時間で判定できる装置が開発されました。この装置を用い、生まれた赤ちゃんが退院する前までに行う聞こえの検査は、「新生児聴覚スクリーニング検査」と呼ばれています。

 県内では二、三年ほど前から、この新生児聴覚スクリーニング検査を実施しています。生まれてきた赤ちゃんの聞こえをできるだけ早く把握して、両親らに安心してもらうとともに、万一聞こえに異常があった場合でも、耳鼻咽喉科や産婦人科、小児科の先生が協力して、その後適切な支援を行なうことにより、聞こえや言葉の発達への悪い影響を最小限にとどめることを行っています。

 私が所属する長崎小児難聴研究会では、赤ちゃんの聞こえや言葉の発達について理解していただこうと、「赤ちゃんのきこえ」と題して、八月二十七日午後二時から長崎市魚の町の市民会館文化ホールで市民公開講座を開催します。講演内容は「長崎県における新生児聴覚スクリーニングの現状」「小児と難聴」「難聴と遺伝子」の三題を予定しており、会場では、聞こえが悪い場合に必要となる補聴器や人工内耳の展示なども行います。参加費は無料です。赤ちゃんの聞こえに関して興味のある方の多数のご参加をお待ちしています。(注 講座は終了しております)

(長崎市坂本一丁目、長崎大医学部耳鼻咽喉科講師 ア賢治)
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