長崎新聞健康欄
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2005年8月15日掲載

女性ホルモンと更年期障害


 卵巣は女性ホルモンを産生する重要な内分泌器官ですが、年齢とともにその機能は低下します。卵巣からの女性ホルモンの分泌が減少すると、月経が不規則になり、ついには閉経を迎えます。日本人の閉経年齢は平均で五十歳くらいといわれており、そのころに動悸(どうき)や火照り、肩凝り、頭痛、不眠といった、いわゆる更年期障害の症状に悩まされる人も少なくありません。

 なぜ女性の更年期障害は起こるのか―。血液中の女性ホルモンが減ってくると、脳の下垂体という場所から卵巣を刺激するホルモンが大量に分泌されます。火照りや発汗、あるいは動悸といった血管作働性の症状はこのために起こるといわれています。従って、更年期障害の治療法として最もリーズナブルなのは、不足している女性ホルモンを補ってやるホルモン補充療法(HRT)ということになります。

 血液中の女性ホルモンが足りなくなると、ほかにも困ることがあります。それは、骨の量が減ることと、コレステロール(脂質)の代謝がうまくいかなくなることです。これは主に「エストロゲン」という女性ホルモンの働きによるもので、HRTによって骨量の維持と脂質代謝の改善が期待できます。女性ホルモンには、エストロゲンのほかに「プロゲステロン」というものがあり、HRTはこの二つのホルモンを組み合わせて行います。患者さんによって薬剤の選択は変わりますが、原則的に、子宮がある人にはエストロゲンとプロゲステロンを併用し、子宮がない人(子宮筋腫などのため、すでに摘出してしまった―など)にはエストロゲン単剤を投与します。

 HRTは更年期障害を改善し、骨量を増加させ、脂質代謝も改善するという、まさに更年期女性にとっては福音であるかのようですが、実はいいことばかりではありません。治療開始直後はどうしても少量の不正出血が起こりますし、近年、米国で大規模な臨床試験が行われ、HRTを受けている人は、そうでない人と比べて乳がんになる確率が高いと発表されました。乳がんと子宮内膜がんは、一般的に女性ホルモン依存性の腫瘍(しゅよう)であるといわれています。HRTと乳がんの発生率に関して、日本人を対象に行われた大規模試験はまだありませんが、やはりHRTをする際に乳がんは避けて通れない問題だと思われ、HRTを受ける時には乳がんと子宮がんの検診は絶対欠かすことはできません。

 乳腺疾患の既往がある人や、子宮内膜に異常がある人はHRTを受けられませんが、漢方薬や、骨量を増やす、あるいはコレステロールを下げる薬を組み合わせて治療しますので、一度産婦人科の主治医に相談されてはいかがでしょうか。きっと、最適な治療法をアドバイスしていただけると思います。

(長崎市万屋町、牟田産婦人科副院長 牟田邦夫)
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