長崎新聞健康欄
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2005年9月5日掲載

前十字靱帯損傷


 膝(ひざ)には重要な靱帯(じんたい)が四つあります。そのうちの一つ、前十字(ぜんじゅうじ)靭帯はスポーツ活動で損傷することが多く、損傷するとスポーツができなくなったり、将来、膝の軟骨がすり減って痛みを生じる原因になることがあります。損傷はほとんどのスポーツ種目で起こり得ますが、中でもジャンプからの着地や急停止、急な方向転換が多いスポーツでの受傷が多く、バスケットボール、サッカーおよびバレーボールで全体の約半数を占めます。また、柔道やラグビーなどで相手にぶつかられて受傷することもあります。

 受傷時の特徴としては、膝が瞬間的にねじれるとともに「バキッ」とか「ブチッ」といった音がすることがあります。また受傷してすぐは膝に力が入らないため、しばらく足を着いて歩けず、徐々に膝に血液がたまって腫れたりもします。このような場合は前十字靭帯を損傷している可能性が高いので、少なくとも数日中に整形外科を受診されることをお勧めします。病院ではまず診察で膝の緩みを確認し、続いて検査を行います。レントゲン写真では異常が見られないことがほとんどで、磁気共鳴画像装置(MRI)検査を行うことにより、靱帯のみならず、膝のクッションの役割をしている半月板や関節表面の軟骨など膝内部の構造を調べることができます。

 前十字靭帯の損傷が自然に治って、どんなスポーツでもできるようになる人は5%にすぎません。p%の人は膝の緩みが生じ、「膝くずれ」といって膝がガクッとなることがあります。緩みの程度としては、ジャンプや全力走を必要とするバスケットボールなどのスポーツをすると膝がぐらつくケースから、日常生活でも膝がぐらつくような重症例もあります。無理してスポーツを続けると膝くずれを生じ、そのたびに半月板や軟骨の損傷が合併していくことになります。

 前十字靭帯の手術成績は近年、飛躍的に向上し、自信を持って勧めることができる手術となりました。その方法は「再建術」といって、前十字靭帯を膝周囲の腱(けん)で新たに作り直す手術です。最近では内視鏡の一種である関節鏡を用いる病院も多く、より正確に手術ができ、皮膚や膝内部の傷も最小限にとどめることができます。しかしながら靭帯損傷に合併した半月板や軟骨の損傷については、程度がひどい場合は靱帯における再建術のように決め手となる治療法が少なく、靱帯は再建できても半月板は部分的に取り除かざるを得ないことがあります。前十字靭帯を損傷したままスポーツを再び始めたことで膝くずれを繰り返し、半月板や軟骨を損傷することが、いかに取り返しのつかないことかお分かりいただけたかと思います。

 十月八日は「骨と関節の日」です。膝に何か異常を感じたら早めに近くの整形外科医にご相談ください。いつまでも健康な膝で大好きなスポーツを続けましょう。

(長崎市坂本一丁目、長崎大医学部整形外科助手 米倉暁彦)
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