長崎新聞健康欄
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2005年9月19日掲載

奥が深いけが「つき指」


 何かの拍子に物が指先に当たって起きる「突き指」は、誰もが一度は経験したことのある、最もありふれたけがの一つです。医療従事者も含めて多くの人が「指を引っ張れば誰でも治せる簡単なけが」と思いがちですが、なかにはしっかりした治療を必要とするものがあります。日常的な外傷で、実は奥が深いこの突き指について説明します。

 まずは、第一関節に見られるけがについてですが、指先の骨には、指を伸ばす筋(腱=けん)が付いています。ここに急激な力が加わると、この腱が切れたり、腱の付いている骨の一部が折れることがあります。そうなると指の一番先端の関節に腫れと痛みが起こり、曲がったままになります。ほかの指で手伝ってやると伸びます(他動伸展可能)が、自分で伸ばそうとしても伸ばせません(自動伸展不能)。指先が、物をたたく時に使う道具の槌(つち)のような形になるので、「槌指」といいますが、野球などの球技中になることが多いので、「野球指」とも呼ばれています。放っておくとそれ以降、第一関節は伸ばせなくなります。腱が切れた場合は、指の固定を六―七週間行います。骨折を伴うときは手術が必要になることもあります。

 次に、第二関節の突き指です。この部分では関節の安定性に重要な靭帯(じんたい)が切れる場合があります。骨折を伴う場合に比べてほったらかしにされることが多いのですが、指に力が入らず、骨が横にずれるような感じがするときは靭帯が切れている可能性があり、治療を必要とします。断裂した部分が少なく、指の動揺性が軽い場合は、第二関節を少し曲げた位置で副子固定を三週間行います。もう少し症状が軽い場合には、患指を隣の指とくっつけて巻くテーピングが実用的です。靭帯が完全に切れたときには、かなり指がグラグラになってしまいますから、この場合には手術が必要になります。局所麻酔をしてから断裂した靭帯を修復します。放置すると第二関節の軟骨が壊れていき、関節そのものが変形し痛みがでてきます。

 日々、何げなく使っている手は、人類の歴史によってつくりあげられた秀逸の精密機械といわれています。正確な動きができる手があってこそ、毎日の複雑な作業が可能となるのです。突き指が抱える問題とは、指が体の端っこにある小さな器官なので、患者さんや周りの人が軽く考えてしまうことです。でも、指はとても複雑な構造をしています。しっかりした治療をしないと、変形や痛みを残し、スポーツや日常生活に不自由を感じるようになります。突き指を甘くみないで、整形外科・形成外科医、できれば手の外科に精通した医師に診てもらうことをお勧めします。

 なお、日本整形外科学会では十月八日を「運動器のリ年・骨と関節の日」と定め、同日午前十時から午後五時まで電話相談室(番号03・3816・8768)を開設。整形外科分野のご質問に、専門医が直接お答えします。

(長崎市元船町、ながたに整形外科院長 長谷芳文)
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