長崎新聞健康欄
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2005年10月10日掲載

糖尿病による「網膜症」


 糖尿病が増えています。最近の厚生労働省の速報では、全国の糖尿病患者は七百四十万人、糖尿病になりつつある予備軍をいれると千六百二十万人に上り、今後ますます増加するとの報告がされています。では、糖尿病で何が怖いのか? 糖尿病と診断されて何年も経つけど何ともない、という患者さんが多いと思いますが、糖尿病による眼の合併症「網膜症」は失明の原因の第一位なのです。自覚症が少なく、眼科受診が遅くなることが大きな要因となっています。糖尿病になり、眼底に網膜症が出てくるまでには五年から十年ぐらいかかるといわれていましたが、五年以内でも患者の10%程度に網膜症が認められるという報告があります。

 網膜症は極めてゆっくりと進行します。最初は、網膜の毛細血管に極めて小さな血管のこぶをつくり、それから、小さな点状出血ができます。徐々にその数が増え、少し大きな斑点状の出血となり、そのうちに白斑といわれる局所の循環障害が認められるようになるのですが、この段階では自覚症はほとんどありません。さらに進行すると、黄斑部という視力にとって最も大事な部位にこれらの病変が及び、やっと視力低下を自覚するのです。自覚症が出てしまってから眼科を受診しても、手遅れの場合があるから厄介なのです。

 しかし、糖尿病を過度に恐れる必要はありません。早期発見はもちろん、治療や定期的な眼底検査を継続することがとても大切です。特に多忙な方は、忘れずに医療機関を受診してください。受診の間隔は、眼底の状態と糖尿病のコントロール状態を考慮して主治医が決めてくれます。忙しい方は、無理なく継続的に診察を受けることができるように、主治医とよく相談してください。定期検査をちゃんと受けていれば、たとえ網膜症になっても失明してしまう確率は小さいのです。失明する方の大部分は、受診を中断していることが多いのです。

 網膜症の治療の基本は糖尿病のコントロールですが、不幸にして眼底の病変が進行してしまった場合には網膜光凝固術を行うことがあります。これはレーザー光線を使って、網膜の障害が強いところを選択的に治療して進行を防止します。数回にわたって繰り返し光凝固を行うこともありますが、進行を抑えるためには、もっとも有効な方法です。糖尿病のコントロールがあまり良くなくて眼底の状態が悪化した場合には、眼科医とよく相談し、タイミングを失うことなく治療に踏み切ってください。さらに進行した状態では、手術が必要になることもあります。手術の発展には目覚しいものがあり、以前は失明してしまう程進行してしまった網膜症も、硝子体(しょうしたい)手術の進歩で失明を防ぐことができるようになりました。内科と眼科を定期的に受診し、治療を継続すれば、網膜症による失明は予防できるのです。どうか忘れないでください。定期受診を。

(諫早市多良見町、松屋眼科医院院長 松屋直樹)
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