長崎新聞健康欄
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2006年4月3日掲載

高齢者の不眠について


「よく眠れません」と訴えて、病院を受診する高齢者の方がいらっしゃいますが、最近ではそういった方が多くなりました。では、高齢になると、なぜ不眠になるのでしょうか。

 その答えは、「睡眠の質が変化する」からです。若いころに比べて、まず寝付きが悪くなります。さらに、深い眠りが少なくなる一方で、浅い眠りが多くなり、何度も夜中に目が覚めるようになるのです。

 高齢になると睡眠の質が変わるのには、次の四つの理由が考えられます。第一には体が必要とする睡眠時間が少なくなるからです。体の成長が終わっているので、成長にかかわる深い眠りをそれほど必要としません。また、日中の活動量が減るので、疲労回復のための睡眠も少なくなります。

 第二に体温リズムの平坦化があります。体温は日中に高く、夜間は低く、この変動幅が大きいほど眠りやすいのですが、高齢になると体温の差が小さくなり、寝付きが悪くなります。

 第三には体内時計の周期の変化が挙げられます。体内時計は二十五時間周期なのですが、年を取ると周期が短くなり、早寝・早起きになってきます。

 最後は身体的、心理的な要因です。高齢者は背中、腰の痛みや皮膚のかゆみ、前立腺肥大による夜間の頻尿など、身体的な要因で不眠となり、さらにそのことを気にして、ますます眠れなくなることもあります。

 加齢によるこういった不眠を改善するポイントについて三つ挙げます。一つ目は、昼間は積極的に活動するように心掛けることです。昼間に活動すると、適度な疲労感から体が睡眠を必要とするようになり、夜になると自然に眠くなります。

 次に、昼間、特に午前中に光をたくさん浴びることです。光をたくさん浴びると、睡眠を促す睡眠物質である「メラトニン」の分泌量が増え、眠りやすくなります。逆に寝る前は、部屋の明かりをやや暗めにしましょう。

 三つ目は、眠くなってから床に就くことです。眠くもないのに、眠れないからといって早く床に就くと、眠れるかどうかの不安やストレスによって、ますます眠れなくなってしまいます。少し遅めに寝て、早起きするようにすると、熟睡感が得られて、ぐっすり眠ることができます。

 高齢になると自由時間が増えて、だらだらと過ごしがちになりますが、心から楽しめる趣味を見つけて、活動的に過ごすことが質の良い睡眠につながります。

 それでも一週間に三日以上、一カ月を超えて不眠が続く場合には、睡眠薬を使うとよいでしょう。以前と違って、現在使われている睡眠薬は安全性が高く、適切に使えば、まず心配はいりません。近くの心療内科や精神科を受診して、よく相談されることをお勧めいたします。

(長崎市虹が丘町、道ノ尾病院精神神経科医師 山田 稔)
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