長崎新聞健康欄
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2006年5月15日掲載

レーザー光と眼科疾患の診断と治療


 私たちは光を通して物を見ることができます。眼科医は人がうまく光を利用できるように医学を使って手助けをしようと何時も考えています。光の性質を応用したさまざまな技術が眼科の診療に用いられていますが、レーザー光も眼科の診療に広く使用されています。レーザー光と聞いて思い浮かぶのは宇宙船での大出力のレーザー銃での戦い、手術に使うレーザーメスかもしれません。しかし日常生活でCD音楽の再生、光ファイバーのブロードバンド通信、航空測量、イベント用のレーザーショーなど意識されることはなくともいつも身近で活躍しています。

 眼科の診療で用いられているのは、検査機器、治療機器に大別されます。両分野とも大きな進歩を遂げつつありますが、まず検査機器での応用例を紹介します。光の干渉という性質を利用すると〇・五マイクロメートルほどの極小の長さを正確に測れ、月までの距離といった長い距離も短時間強い光を用いて十センチほどの誤差で正確に測定できます。目の各部位の大きさ長さも正確に測定でき、眼底という目の奥の表面の細密な航空写真みたいな写真が撮れます。また目の神経の形を正確に測って分析する機械、神経の厚みを測定分析できる機械が主に緑内障の診断に使用できるようになっています。さらには目の奥の断面を描出できる機械が眼底の病気の診断に使われ威力を発揮しています。大気中の窒素酸化物、二酸化炭素の汚染物質の濃度もレーザー光の吸収による減少を利用して測定されていますが、目の炎症の度合いも似たような性質を利用して白内障手術後の回復の評価、炎症の病気の活動性評価に使用されています。将来もっと微細な波長のレーザー光(エックス線レーザー)が開発されれば遺伝子レベル分子レベルの異常を即座に検出でき、眼科疾患を診断治療する上でのロゼッタストーンになるかもしれません。

 レーザーを用いた治療の一つは映画のスターウォーズで騎士たちが使うライトセーバーのように燃焼、切断、溶接現象を利用しています。目の奥のフィルムに穴が開く小規模の網膜剥離(はくり)の治療にはレーザー光が三十五年前から使われています。二年前から加齢黄斑変性症という中高年に発症する、物がゆがんで見え徐々に中心が見えにくくなる病気の治療に悪いところにだけ薬を入れて焼くといった悪い場所に選択性を持つ治療が日本でも行われています。緑内障では目の中の水の出口の悪い細胞だけを標的として分解して、目の圧力を低下させる細胞に選択性を持つレーザー治療も行われています。

 もう一つはスターウォーズの宇宙船同士の戦いで宇宙船を蒸発消失させ衝撃波で破壊するレーザーを用いた治療です。目の中の水の流れがふさがれ、緑内障の発作が発症することを防ぐためには茶色目に極小のバイパスの穴を作成します。白内障の手術の後の人工のレンズの近くにできる濁りは蒸発させ、吹き飛ばすことで光が通りやすいよう治療します。

 このように眼科疾患の診断と治療にレーザー光は多様に活用され眼科とレーザー光は協調的、相性が良くあっています。

(長崎市滑石三丁目、中村眼科医院院長 中村 充利)
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