長崎新聞健康欄
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2006年7月3日掲載

性感染症について


 性行為による感染症は性意識の変化とともに多様化し、病原体も細菌やウイルスなど多彩になりました。そこで性病という従来の概念を改め、性的接触によって感染するすべての疾患を性感染症と表記することが国際的な定義となりました。わが国では、一九九九年四月施行された「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」の下に全数報告の梅毒は週報、定点報告の性器クラミジアや性器ヘルペス、尖圭(せんけい)コンジローマ、淋菌(りんきん)感染症は月報で国立感染症研究所から。また、エイズウイルス(HIV)/エイズに関しては三カ月ごとに厚生労働省エイズ動向委員会から、それぞれ各都道府県医師会へ報告があり、インターネットで一般にも公開されています。ただし、現在行われている定点報告での性感染症動向調査においては、定点の選定に際して均質性・代表性が確保されていないため、定量的な推計値の算出やそれを用いた比較を行うことは困難です。

 最近はクラミジアや淋菌、ヘルペス、コンジローマなど従来の性感染症全体において、それぞれの症状が軽くなりつつあり、無症候感染も少なくありません。その上、若者の性の自由化傾向が急速に一般化しつつあるため、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の6型、11型感染である尖圭コンジローマが性感染症であるように、HPV16型、18型などの感染である子宮頸(けい)がんも腫瘍(しゅよう)型の性感染症となっています。HPV感染年齢の若年化と感染拡大が、子宮頸がん発生の若年化を起こしつつあります。

 性感染症の予防には、必ずコンドームを正しく使用する習慣を持つことが強く求められています。従来の性感染症に罹患(りかん)していると、通常の五倍はHIVに感染しやすくなります。二〇〇五年に国内で新たに報告されたHIV感染者数は七百七十八人、新規エイズ患者数は三百四十六人。合計では千百二十四人と過去最高で、累積患者数は一万九百六十一人に達しています。先進国の中でHIV/エイズ患者がいまだに増加し続けているのは、わが国だけといわれており、今後の爆発的な増加が懸念されています。

 淋菌感染症は男女ともに一九九三年以降、増加傾向にあり、性行動の多様化により、尿道炎、子宮頸管炎に加えて、咽頭(いんとう)や直腸感染者が増加しています。近年著しい多剤耐性淋菌の出現増加も影響しています。

 淋菌感染症とともに、性感染症の主要な起炎菌であるクラミジアの増加も報告され、両者の混合感染例も少なからず報告されています。初期診断においてクラミジアと淋菌を同時に検査することは、潜在的な感染を明らかにすることで適切な薬剤選択が可能となり、薬剤耐性菌を生じさせない効果があります。最近開発された同時検出キットは交差反応性試験において高い特異性を示し、従来の抗原検出法より高感度で反応阻害物質の影響を受けないことが確認され、今年二月から保険適用となっています。性感染症の治療は短期間のうちに完全な治療効果を挙げることが重要です。

(長崎市田中町、東長崎皮ふ科泌尿器科医院院長 居原 健)
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