長崎新聞健康欄
前の記事へ 記事一覧へ 次の記事へ

2006年11月6日掲載

C型慢性肝炎について

 C型慢性肝炎とはC型肝炎ウイルスの感染により六カ月以上にわたって肝臓の炎症が続く病気です。初期には多くが無症状ですが、放置すると十―三十年で肝硬変に至ります。肝硬変になると肝がんも発生しやすくなり、進行すれば肝不全や食道静脈瘤(りゅう)破裂など生命にかかわる問題も起こるようになります。わが国の肝がんによる死亡者数は一九七五年以降急増し、年間約三万五千人です。この肝がん死亡の原因の約80%はC型慢性肝炎です。

 C型慢性肝炎の治療法には、ウイルスを排除して肝炎の完治を目指す「抗ウイルス療法」と、肝炎を軽減し肝病変の進行を防ぐ「肝庇護(ひご)療法」があります。

 抗ウイルス療法の主役であるインターフェロンには幾つかの種類があり、最新のペグインターフェロンは週一回の注射で優れた効果を示します。また、リバビリンは単独使用ではほとんど無効ですが、インターフェロンやペグインターフェロンと併用するとウイルス排除効果を大幅に増強します。

 インターフェロン単独療法は九一年に健康保険が適用され、多くの患者さんに使用された結果、全体では約30%の人でウイルスが排除されました。しかし、日本に多い、ウイルスの遺伝子型(ジェノタイプ)1b型で高ウイルス量の人に限ればウイルス消失率はわずか5%でした。その後徐々に改良が加えられ、二〇〇四年承認のペグインターフェロン・リバビリン併用療法では、1b型かつ高ウイルス量の人でのウイルス消失率は50-60%にまで高められました。

 厚生労働省から公表された「治療ガイドライン2006」では、ウイルス量、遺伝子型、初回治療か否かによって、それぞれに最適なインターフェロン療法が推奨されています。治療によりC型肝炎ウイルスが完全に排除された人では未治療の人に比べて明らかに肝がんの発生率が低下します。また、ウイルスが消失しなくても治療中に肝障害が改善すれば、肝硬変や肝がんへの進展が抑えられます。

 最近、肝機能正常のC型肝炎ウイルス持続感染者に対しても積極的に治療するとの方針が提唱されました。たとえば血清ALT値が三一IU/Lの場合、以前は治療不要と考えられましたが、現在は慢性肝炎に準じて治療すべき場合があります。

 抗ウイルス療法による完治が困難な場合には肝庇護療法が選択されます。これは肝炎の沈静化を目的とし、グリチルリチン製剤やウルソデオキシコール酸が主に使用されます。血清ALT値を長期間低い値に保てば、肝がんの発生リスクは軽減されます。

  現在わが国には百五十万―二百万人のC型慢性肝炎の患者さんあるいはキャリアがいると推測されていますが、治療中の人は五十万人にすぎず、残りの百万―百五十万人の中には自分がC型肝炎ウイルスに感染していることに気づいていない人もいます。四十歳以上の方は住民検診やそのほかの機会を利用して積極的にC型肝炎ウイルスの有無を検査するようお勧めします。

(長崎市茂里町、日本赤十字社長崎原爆病院第一内科部長 鶴田 正太郎)
>>健康コラムに戻る

前の記事へ 記事一覧へ 次の記事へ