長崎新聞健康欄
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2005年12月4日掲載

機能性胃腸症について

 「胃が痛い」「空腹感がない」「胃がもたれる」などの症状が続くため、内視鏡検査やエックス線検査を受けたけど異常が見つからない…。医者からは「胃炎」という病名でいろいろな薬を出されるが一向によくならない…。最近このようなことがありませんか?

 日本人の成人の四人に一人がこのような胃の症状に悩んでいるといわれています。本来、胃の粘膜にただれや発赤が見られるのが胃炎で、検査をしても異常がないのに胃の不快感を訴える場合は「機能性胃腸症」が疑われます。
機能性胃腸症は、あまり聞きなれない病気の名前だと思いますが、ストレス社会の現在、この病気を持つ人が増えてきています。

 正常な胃の運動では食べ物が胃に入ると、反射的に胃が緩んだ(弛緩=しかん)後、胃の上方(胃底部)から中央(胃体部)でたまり、胃の収縮と弛緩を規則的に繰り返し(ぜん動運動)、食べ物と胃液が混ざり合っておかゆ状に消化されます。おかゆ状になった食べ物はさらにぜん動運動を繰り返し、胃の出口(胃前庭部)に進み、十二指腸へと送り出されます。食べ物の種類にもよりますが、食べ物が胃にとどまる時間は二―三時間くらいです。これら一連の運動に異常が起こると、食べ物が胃に入った時に胃がうまく膨らまず(弛緩不全)、胃の内圧が上昇し胃から食道への逆流症状(胸焼け)が起こったり、十二指腸へ送り出すのが遅くなり胃に食べ物が停滞し(排出遅延)、胃もたれ、胃の膨満感が起こります。

 機能性胃腸症の主な原因としては、ストレスなどの心理社会的因子、過労、睡眠不足、不規則な生活や食事、お酒やコーヒーの飲み過ぎなどが挙げられ、これらによって消化管運動異常や消化管の知覚過敏が起こり症状を引き起こします。

 機能性胃腸症は症状によって「運動不全型」「かいよう症状型」「特定不能型」に分けられ、胃の動きが悪くなり、胃もたれや膨満感を訴える運動不全型には、胃腸の運動を促進する薬である、消化管運動賦活(ふかつ)剤を。胃酸過多に伴う痛みを症状とするかいよう症状型には酸分泌抑制剤を。特定不能型は精神的要因が強い場合が多いため、軽い安定剤を投与することもあります。逆に、検査で異常がないことが分かり、安心して症状が軽減する場合もあるくらいです。

 治療としては、お薬はもちろんですが、その前にまず生活習慣を見直しましょう。(1)夜食や間食は避け規則正しい食事をする(2)刺激物(香辛料、熱過ぎたり冷た過ぎるものなど)は避け、よくかみ、楽しい食事を心掛ける(3)アルコールやコーヒー、タバコは控える(4)ストレスをためず適度な運動と十分な睡眠を心掛ける―ことです。

 もちろん、機能性胃腸症は検査で異常が見つからないことが前提です。同じような症状で胃がんや胃かいようなど重大な病気が隠れていることがありますので、漫然と薬を飲み続けたり、症状が軽いからといって放置せず、胃の検査を受けたり、消化器専門医へご相談することをお勧めします。

(長崎市緑が丘町、古市外科・胃腸科医院医 古市 哲)
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