長崎新聞健康欄
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2007年1月4日掲載

救急医療に大きな変化

 私たちはいつ緊急の病気や外傷で医療を必要とするか分かりません。安心して暮らすには、いつでも、どこでも、誰でも必要な医療を受けることができなければなりません。最近は救急医療をめぐる状況は大きく変化し、高齢化とともに、救急搬送件数は大幅に増え、心臓病や脳血管疾患による重症患者の割合が増加しています。救急搬送は消防機関の業務ですが、搬送中の処置にも大きな変化があります。救急救命士の誕生とともに、その処置範囲が病院前救護として、自動体外式除細動器(AED)の使用、静脈路の確保、気管挿管、薬剤の投与が救命医療機関との連携のもとで認められるようになりました。さらに医療機関以外でもAEDが設置され、一般市民もAEDを使用することが可能となったことは画期的なことです。また、長崎県では昨年より、救急医療施設へのアクセスという意味で、医師が同乗したヘリコプター搬送も始まりました。

 救急医療は心臓病、脳血管障害など生命に危険のある重症疾患、重傷多発外傷、広範囲熱傷などの重症者を取り扱う三次救急があり、この数十倍以上の治療を取り扱う一次、二次救急があります。長崎地区における小児救急と成人、高齢者救急の現況について説明します。

 (1)小児救急
 小児科は少子化の進行に伴い、一般病院における小児科の病床削減や、病棟閉鎖、小児科医の定員の削減など、小児科を取り巻く環境は厳しさを増しています。長崎地区ではかかりつけ医へ相談するか、夜間は栄町の長崎市医師会夜間急患センターに来ていただければ治療できますし、入院が必要な場合は紹介する制度になっています。

 (2)成人、高齢者救急
 開業医、長崎市夜間急患センター、一般病院で一次救急を行います。入院、手術などを必要としている重症者を収容する施設を二次医療機関と呼び、十一の医療機関が連携して輪番体制を組み、二ないし三病院が当番病院として必要な診療機能およびベッドを確保することになっています。これを補うものとして八つの救急協力病院があり、ほかに七つの救急告示病院があります。さらなる重症者は三次救急として長崎大学病院が対応します。

 過日、奈良県で分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、十九の医療機関が受け入れができず、妊婦さんが死亡されました。この事例を看過できず、先日、長崎地区で救急医療に携わる医療機関が一堂に集まり、受け入れができない例をできるだけ減らそうとの取り組みを始めました。

 長崎地区には救命救急センターはありません。医師不足や、当直をしても翌日も勤務しなければならない医師の過酷な労働環境の改善も必要です。救急の問題を個別の医療機関に押しつけるだけでは解決できませんし、経済主義のみでは救急医療は崩壊します。救急医療を支える市民の強い意志が必要です。それがあって行政を動かすことができますし、さらなる救急医療体制の整備につながると思います。

(長崎市医師会救急担当理事 吉良 満夫)
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