長崎新聞健康欄
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2007年2月19日掲載

閉寒性動脈硬化症の症状

 歌手の村田英雄さんの最期の姿を、まだ忘れられない方もいらっしゃるかと思います。村田さんは足の血管が詰まってしまう「閉塞(へいそく)性動脈硬化症」という病気のため、両足を切断された状態で晩年を過ごされました。遺族のご配慮により、在りし日の元気な姿は現在ポスターなどで使われ、閉塞性動脈硬化症の治療のシンボル的存在となっています。

 この病気は、「動脈硬化により主に脂肪からなる粥状(じゅくじょう)物質が動脈壁内膜に沈着し、動脈の内腔(ないくう)が狭くなり循環障害をきたした状態」と定義されており、特に下肢(足)は虚血に弱く、下肢の動脈が詰まるとさまざまな症状が出ます。症状により重症度が1−4度と四段階に分類され、まず無症状の状態からしびれや足の冷感を自覚するようになると、これが初発症状の「1度」の段階。次に一定の距離を歩くと下肢に疲労感、疼痛(とうつう)が現れて歩けなくなる(間欠性跛行=はこう)状態になると「2度」の段階です。その後重症化していくと、じっとしていても痛みが持続する(安静時疼痛)「3」、足に潰瘍(かいよう)や壊死(えし)が生じる「4度」となり、3-4度まで進行すると下肢を救う(足切断を逃れる)ため、足の血流を改善させる血行再建術が必要となります。

 日本では六十歳代で二十人に一人、七十歳以上では十人に一人がこの病気を有しているといわれています。毎年増加傾向にあり、今後高齢化社会になるにつれ、さらに患者さんは増えていくものと考えられます。特に糖尿病やたばこを吸われる方は、罹患(りかん)危険率が三−四倍高くなるとされていますので、足の症状で思い当たる方は一度ご相談されてみてはいかがでしょうか。

 下肢動脈の検査は近年低侵襲化し、血管エコーやコンピューター断層撮影(CT)により、外来でのわずかな時間で病変部位まで特定できるようになりました。特にマルチスライスCTの登場でカテーテル検査が不必要となり、何よりも患者さんにとって侵襲が少なく(負担が軽く)なったことは、非常に大きなことだと思われます。

 また、最近では、全身の動脈硬化病変の一部分としてとらえよう(下肢の血管疾患を全身の血管疾患の糸口にしよう)という機運が高まってきています。たとえば閉塞性動脈硬化症の患者さんの半数が、心筋梗塞(こうそく)や狭心症の原因となる心臓の冠動脈の疾患を有しているといわれており、実際に私の外来に来られる患者さんの八割に、冠動脈の病変が見つかりました。心臓や頭の血管も大きなイベント(症状)が起こる前に検査し、治療を始めることによって、生命予後も大きく変わるものと思われます。そして、最期まで自分の足で元気に歩いて過ごしていただきたいと願います。

(長崎市虹が丘町、虹が丘病院血管外科部長 西 活央)
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