長崎新聞健康欄
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2007年4月2日掲載

ひろがる小線源治療

 近年わが国では、高齢化と食事や生活様式の欧米化に加え、前立腺特異抗原(PSA)といわれる腫瘍(しゅよう)マーカー検査が普及してきました。その結果、特に早期前立腺がんが診断される機会がこれまでになく急速に増えています。この早期前立腺がんの治療には手術治療、放射線治療、内分泌治療、経過観察など多くの選択肢があります。適切に行われれば、どの方法でも一定の効果が期待できることから、いざ治療を行う場合、どれを選ぶべきかは患者さんにとって非常に大きな問題です。最終的にはがんの状態はもちろん、年齢、合併症、各治療法の長所・短所を総合的に考慮し、担当医と話し合いの上、ご本人の希望を含めて決めることが多くなっています。

 これまでは根治を目指した治療として手術治療が主でしたが、放射線治療も日々進歩してきました。放射線治療には体の外から前立腺を狙って高い線量を照射する外部照射法と、今回、紹介する小線源治療を代表とした組織内照射法があります。小線源治療は、ヨウ素125という放射性物質を密封した五ミリ程度の細長いチタン製カプセル(小線源)を、会陰部(陰のうと肛門〈こうもん〉の間)から刺した細い針を通して前立腺の内部に五十−百個程度を埋め込む方法です。その結果、高い線量を正確に前立腺に照射することが可能になります。

 特徴として手術治療に比べ出血が少ない、体に対する負担が軽い、入院期間が四−六日と短く、退院後速やかに日常生活が可能になることなどが挙げられます。治療後の合併症の多くは排尿および排便に関するものですが、ほとんどは三カ月から半年で軽快してきます。手術治療でよく問題になる尿失禁や勃起(ぼっき)不全の頻度も少なくて済みます。治療成績については海外の成績によると、手術治療や放射線外部照射治療とほぼ同じとされています。米国では十五年近くの歴史があり、多くの患者さんに行われていますが、わが国では二〇〇三(平成十五)年からようやく実施可能となりました。現在までに全国で約四千人がこの治療を受けており、今後もさらに増えていくものと思われます。

 夢のような小線源治療ですが、注意点もあります。治療成績から見た最も良い適応は、早期がんの中でもPSAの値が10未満▽グリソンスコアと呼ばれるがんの指標が6以下▽がんの広がりが前立腺全体の半分以下のもの−とされています。それ以外の早期がんには放射線外部照射を併用することが推奨されています。また、前立腺自体が大きすぎる場合や過去に前立腺肥大症の手術を受けた方は、原則として適応外となる点などが挙げられます。

 残念ながらがんが発見された場合でも、前立腺がんは他の臓器のがんに比べると進行は非常に緩やかであることや、多くの有効な治療選択肢があることを心に留めて、担当医と十分話し合った上で納得のいく治療を受けることが大切です。その中で小線源治療は非常に有望な治療選択肢になるものと思います。

(長崎市坂本一丁目、長崎大医学部泌尿器科助教 井川 掌)
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