長崎新聞健康欄
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2007年5月8日掲載

肝がんについて

 わが国では、肝がんが原因で一年間に約三万五千人が亡くなっています。これは肺がん、胃がん、大腸がんに次いで多く、近年、増加傾向にあります。

 肝がんには、その九割以上がC型あるいはB型の慢性肝炎および肝硬変の患者さんに起こっているという際立った特徴があります。このことは予防や治療に大きな意味を持ってきます。

 肝がんの予防で最も有効な方法は、原因となっているウイルスを駆除することです。C型肝炎ウイルスには、新しいインターフェロン治療、B型肝炎ウイルスには抗ウイルス剤の内服治療が効きます。また、ウイルス性の肝疾患にかかっている人は定期的に超音波検査(エコー)やコンピューター断層撮影装置(CT)による検査を受け、より小さいうちにがんを発見することも重要です。

 肝がんの治療には大まかに分けて、外科的切除、カテーテル治療、局所治療があります。どの治療法を選択するかは、がんの数と大きさ、発生場所、肝臓の予備能力(治療の負担に耐えられる余力)を考慮して決定します。また、肝がんは治療後も経過とともに肝臓の別の場所で新しく発生することも多いため、その点も考慮します。

 外科的切除は全身麻酔をかけておなかを開き、実際にがんを目で確認して切除するため、大きい病変でも確実に切り取れる利点があります。ただし、肝臓の一部を切除するので、肝機能が良好であることが条件です。
 がんの場所によっては、「腹腔(くう)鏡」というカメラをおなかの中に挿入して肝臓を切除する方法もあります。

 カテーテル治療は太ももの付け根からカテーテルという細い管を体に挿入し、がんに栄養を供給する動脈を見つけてがんを小さくする薬を入れたり血管を詰めたりして“兵糧攻め”にする治療です。がんが大きかったり、個数が多かったりしても治療でき、繰り返して治療もできます。

 局所療法は、局所麻酔を皮膚と肝臓表面に行い、がんに直接針を刺して治療します。二〇〇四年四月から「ラジオ波焼灼(しゃく)療法」が健康保険に適応され、全国で広く施術されています。鉛筆のしんぐらいの太さの針をがんに直接刺し、電気を流して焼きます。焼いた部分は完全に壊死(えし)するため、一回ごとの治療の確実性が高く、これも繰り返して施術可能です。

 ただし、熱が周囲の臓器に及ぶと合併症を来すため注意が必要です。

 一般的には、がんの大きさが三センチ以下で、三個以下というのがラジオ波治療の適応の目安になります。肝がんの治療は数年にわたることも多いため、できるだけ肝臓に負担をかけず、時には、がんと共存しながら治療を行うことも必要です。

(長崎市新地町、市立市民病院内科医長 重野 賢也)
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