長崎新聞健康欄
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2007年6月18日掲載

毛虫皮膚炎

 この時期、激しい痛みやかゆみを伴う発疹(ほっしん)に毛虫皮膚炎があります。例年、五月の連休前後から見られ、今年も六月に入ってから急増しています。

 古今東西、嫌われ者の毛虫ですが、多くは人間に無害です。私たちのごく身近で有害な毛虫といえば、チャドクガなどのドクガと、ヒロヘリアオイラガなどのイラガの幼虫でしょう。

 ヒロヘリアオイラガは最近、日本に入った外来種です。サクラやカシの木に幼虫が発生して、刺される機会が増えています。一見、青虫に似たイラガ科の幼虫は毒棘(どくきょく)と呼ばれる短いトゲを持っています。知らずにこれに触ると皮膚に毒液が入って赤くなり、とても激しい痛みが起きます。翌日から再びはれて、かゆみが出ることもあります。

 ドクガ科のチャドクガは、茶のほかにツバキやサザンカの葉を好むため、日ごろからよく見掛けます。年に二回、五月から六月と、八月から九月にかけて幼虫が発生します。

 一匹のドクガ幼虫には、五十万本から数百万本の毒針毛があるとされます。毛虫の長く目立つ毛ではなく、ビロード状の斑点の部分です。長さ約〇・一ミリと小さく、肉眼では針というより粉に見えます。葉が揺れると毛虫は外敵から身を守るため、大量の毒針毛を振りまきます。直接、あるいは風に運ばれ、人の露出した腕や首などに付着します。

 針が皮膚に刺さると、すぐ焼けるような痛みやかゆみが起こり、虫刺されのようなピンク色の斑点が徐々に現れます。発疹は翌日くらいから、刺さった針を中心に赤いぶつぶつに変わります。しばらく激しいかゆみが続くのは、毒針が皮膚の中で壊れ、中からヒスタミンなどの炎症を起こす化学物質が出るためです。

 対策として、ツバキやサザンカの手入れをする場合は、着衣や手袋でしっかり皮膚を保護しましょう。毛虫がいない時期でも、幼虫が脱いだ殻や、ガの成虫、卵に付いている針に刺されることもあります。毛虫に触れたり、その恐れがあるときはまずは服を脱ぎ、粘着テープなどで皮膚に付いた毒針を取り除き、シャワーを浴びるなどしてください。

 毛虫が嫌だから木を触らない、という人も油断できません。木陰のベンチで、庭に干していた洗濯物で、時には風のいたずらで、皮膚炎が起きてしまいます。

 毛虫皮膚炎の治療にはかゆみ止めの塗り薬、特に強めのステロイド外用薬が有用です。むやみにかいてしまうと、毒針を壊したり、奥に押し込んだりしてさらに強い炎症を起こします。できるだけ、かかないようにしてください。

 激しいかゆみのために眠れなくなることも多く、その場合は抗ヒスタミン薬などの内服薬を用います。一週間くらいの治療で完全に治ります。できるだけ早く皮膚科を受診するようお勧めします。

(長崎市岩屋町、かずもり皮ふ科院長 計盛 幸子)
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