長崎新聞健康欄
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2007年7月2日掲載

うつ状態の診断と治療

 「うつ」に関する情報をよく見聞きします。しかし、その内容には正確さを欠く部分があります。正しい知識を整理しましょう。

 まず診断法についてです。書籍やインターネットには症状のチェックリストが用意され、「落ち込み」や「興味の減退」などの該当項目を自分でチェックすればうつ状態かどうかが分かるように書いてあります。しかし、治療方法の選択まで含んだ診断という点では、私たち専門家にとってうつ状態が最も難しいのです。

 なぜならば、うつ状態には多くの種類があり、それぞれ治療法が異なるからです。発症の状況、身体要因、環境要因(家庭、学校、職場、地域のストレス)、アルコール、薬物との関連、症状の中身、性格などについて丁寧に診察(場合によっては経過を観察)しなければ正しい診断はできません。

 もし、チェックリストでうつ状態と判定されても、一時的なものであれば心配には及びません。治療が必要なうつ状態とは、うつ症状が二−三週間以上持続し、日常生活や社会生活(会社や学校など)、あるいは体調に何らかの支障を来すような場合に限られます。

 次は治療法です。大きく分けて薬物療法、精神療法、環境療法があります。

 薬物療法では、うつ病性障害(ストレスと関係なく起こるうつ病)には抗うつ薬(SSRI)の投与が効果的です。他方、適応障害・ストレス関連障害(ストレスが原因で起こるうつ状態)に対しては、他の抗不安薬の方がより効果的です。

 さらに認知症の初期、統合失調症、神経症性障害、人格障害、思春期の情緒障害でもうつ状態を伴います。病態に応じて抗精神病薬、抗認知症薬、抗不安薬などが投与されます。

 精神療法には、患者の訴えを傾聴し受容しつつ助言する支持的精神療法、「決めつけ」や「思い込み」など認知のゆがんだ点を是正する認知療法、仏教の人間観に基づいた森田療法、精神分析療法などがあり、病態に応じて選択されます。最近は、認知療法がうつ病性障害に有効と立証され、実施されています。

 環境療法は、家庭や職場に対して対応の指導やストレスを軽減するよう調整します。「休養が肝心」ということで病休を勧める人が多いのですが、うつ病性障害は程度が重くない限り、無理して仕事や学校を休むことはありません。適応障害・ストレス関連障害はむしろ仕事をしながら、一定の負荷の中で治療を受けた方がいいでしょう。

 また、「励ましてはいけない」とよく言われますが、「治療すれば必ず治る。大丈夫」といった励ましは治療的です。要
は、心理的なプレッシャーを与えて心身の疲れを増すような言葉はよくないということです。

 うつ状態には多くの種類があって治療法も異なるため、専門医による見立てが必要ということが理解していただけたでしょうか。最近の調査によると、日本人のうつ病患者で医師を受診したのは四人に一人だけで、しかも精神科医を受診した人はさらに少ないことが判明しました。うつ症状に悩む人はぜひお近くの専門医を受診されることをお勧めします。

 (長崎市宝町、けんクリニック院長 荒木 憲一)
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