長崎新聞健康欄
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2007年9月3日掲載

腰痛治療最前線

 近年、患者さんの負担が小さい鏡視下手術が広がりを見せています。背骨の鏡視下手術には、顕微鏡手術や内視鏡手術があり、顕微鏡手術は二十年ほど前から、内視鏡手術は十年ほど前から始まり、主に腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアと腰部脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症の手術で用いられています。

 椎間板ヘルニアは、背骨の間でクッションの役割をしている椎間板が後ろに飛び出して足へ走る神経を圧迫し、座骨神経痛を起こす病気です。脊柱管狭窄症は、年を取ると背骨が変形し、背骨の中を通っている神経が圧迫され、足や腰がしびれたり痛んだりする病気で、安静時には症状はほとんどありませんが、歩行とともに痛みやしびれが悪化し、長い距離を続けて歩けなくなる間欠跛行(かんけつはこう)が特徴的な症状です。

 椎間板ヘルニアの多くは保存治療が有効であり、安静、鎮痛剤投与、リハビリ、ブロック治療などで約八割の方は症状が改善します。しかし、二割の方では保存治療の効果はみられず手術治療が必要になります。脊柱管狭窄症の手術適応は、(1)百メートル続けて歩けない(2)立ち続けることが困難で炊事が苦痛(3)歩行で尿意が出現する−などで、約三人に一人の割合で手術が必要になるといわれています。

 顕微鏡手術の方法は皮膚を二十五ミリ切開し、顕微鏡を用いて明るく拡大された鮮明な術野で、神経を圧迫しているヘルニア、靱帯(じんたい)、骨などを安全に切除できます。内視鏡手術の方法は、皮膚切開十六ミリとさらに小さく、専用の筒を筋肉を分けるように入れた後、内視鏡を入れモニターを見ながら行います。いずれの手術も傷は一カ所だけで、所要時間は一時間程度です。手術の翌日から歩くことができ、入院も一、二週間で済み、家事などは退院した日からでき、事務系の仕事なら術後三週間ほどで復職が可能です。

 患者さんにお聞きしますと、今までの脊椎手術のイメージは、「手術後歩けなくなることがある危険な手術」「手術後長期間動くことができず大きな苦痛を伴う」「大手術で何カ月も入院が必要」などがあり、手術の決心がつかない方もおられるようです。

 脊椎鏡視下手術は、従来の手術と比べて傷が小さく術後の痛みが少ない、入院期間が短く早期の社会復帰が可能など多くのメリットがあります。身体は健康なのに下肢の痛みやしびれのために満足できる生活が送れない、とお悩みの方にはお薦めできる手術法だと思います。

 ただし、特殊な技術も必要で、特に内視鏡手術は新しい手技で、医師が確かな技術を習得するまでには十分な時間と経験を必要とします。一昨年から内視鏡手術技術認定医制度が始まり、今後多くの医師がトレーニングを受けると思われます。

 脊椎鏡視下手術は今後、使用する機器の進歩や安全性の確立とともに発展していくと予想されます。ちなみに、日本整形外科学会は、十月八日を「骨と関節の日」と定めています。

(長崎市飽の浦町、三菱長崎病院整形外科部長 矢部 嘉弘)
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