長崎新聞健康欄
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2007年9月17日掲載

運動器不安定症と関節疾患

 厚生労働省は二十一世紀における国民健康づくり運動を二〇〇〇年度から開始し、十年を目途にすべての国民が健康で明るく元気に生活できる社会の実現を目指しています。その達成のため、高齢に伴いバランス能力、歩行能力が低下し、閉じこもりや転倒する危険性の高い状態を「運動器不安定症」と定義し、対策を取るようになりました。

 運動機能低下を来す疾患には脊椎(せきつい)疾患、神経・筋疾患、下肢骨折、変形性関節症、関節リウマチなど十一疾患が挙げられており、整形外科を受診する高齢者のほとんどが該当します。このような疾患に過去または現在、罹患(りかん)している患者で、日常生活の自立度が要支援や要介護1、2の人、あるいは開眼での片脚起立などの運動機能テストで機能低下が認められた場合に運動器不安定症と診断されます。

 今回は運動機能低下を起こす疾患の中から、変形性関節症や関節リウマチなど主に関節に異常を来す疾患について述べたいと思います。

 関節は硬い骨の表面を軟骨が覆い滑らかな動きができるようになっています。軟骨が一定の弾力性を有しているため、荷重などの衝撃を和らげてくれるのです。健康であれば一生を通じて関節に痛みを感じることなく過ごせます。

 変形性関節症はその関節軟骨の成分が変性、減少する疾患で、次第に高度の関節変形を起こします。股(こ)関節や膝(しつ)関節のような下肢の大関節に発症すると、痛みのため歩行が困難となります。初期であれば手術をしないで治療も可能ですが、進行すると骨切り術や最終的には人工関節置換術を行うこともあります。

 一方、関節リウマチは手指や足指などの小関節から股関節、膝関節などの大関節に至るまで多発性の関節障害を来し、進行すると日常生活も著しく制限されます。初期は朝のこわばりや関節のはれや痛みなどがあり、血液検査で診断が可能です。最近は種々の薬剤も開発されてもおり、早期に診断治療することが重要です。

 これらの関節疾患に罹患すると痛みのために関節を動かさないようになることから、関節の拘縮(こうしゅく=関節が固くなり動きが悪くなること)、関節周囲の筋肉の委縮が生じます。さらに下肢の関節に障害があると立位や歩行が困難となり、ますます筋力が低下して転倒しやすく、外出も困難となります。

 このような運動器不安定症の患者は原疾患の治療はもとより、十分なリハビリテーションを行い転倒の防止に努める必要があります。将来寝たきりとならないためにも、早めに整形外科専門医を受診し、治療を受けることをお勧めします。来月は「骨と関節の日」(十月八日)もあります。ぜひ関心を持ってほしいと思います。

(長崎市銅座町、あじさいクリニック院長 松本 智子)
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