長崎新聞健康欄
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2008年4月7日掲載

不眠症について

 睡眠は私たちにとって大変身近で重要なものです。しかし、「眠れません」と病院を受診される人の中で、自分の睡眠の状態を詳しく説明できる人は少ないようです。誤った知識や俗説がちまたにあふれていることも事実です。あなたの常識は間違っていませんか。誤った知識は直しておきましょう。

 まず、睡眠時間にこだわりすぎていませんか。睡眠時間は「八時間が理想的」とよくいわれますが、医学的根拠は薄いものです。

 睡眠時間は個人差、年齢差に加えて季節変動があり、一人一人異なります。一般に年をとるほど必要な睡眠時間は減っていき、七十歳以上では平均六時間弱となります。日中の眠気で困らなければ十分です。

 就寝時間より起床時間が大切です。通常寝る時刻の二−四時間前が一番寝つきにくいことも分かっています。就寝時刻はあくまで目安であり、無理に早めに床に入ろうとせず、眠くなってから床に入るほうが良い眠りへの近道になります。また、寝つく時刻は朝起きた時刻で決まってくることから、毎朝同じ時刻に起床し、起床後なるべく早く日光を浴びるようにしましょう。そうすると生活のリズムも整います。

 それから寝酒はかえって不眠を招きます。確かにアルコール類を飲むと一時的に寝つきが良くなることがあります。しかし、数時間後には眠りはむしろ浅くなり、途中で目が覚めるなど睡眠の質は低下します。

 寝酒を続けていると、だんだん慣れて効き目が悪くなり、酒量が急に増えてしまうことがあります。そうなると、アルコール依存症などの精神的問題や肝機能障害などの身体的問題が起こりやすくなり、新たな病気をつくってしまうことにもなりかねません。

 昼食後に眠くなった経験は皆さん持っていると思います。それは体内時計のリズムに関する生理的なもので、一定時刻を過ぎると眠くなくなります。どうしても眠い場合は昼寝をしてもいいですが、午後三時までに短くとるのがポイントです。

 かつて昼寝は夜の睡眠の質を低下させるといわれていました。しかし、昼食後から午後三時までの三十分未満の規則正しい昼寝は夜の睡眠に悪影響を与えないだけでなく、日中の眠気を解消するのに役立つことが分かってきています。

 これらの工夫をしても眠れないときは、睡眠薬を考えてみてもいいでしょう。正しく使えば怖くありません。かつて使われたバルビツール系睡眠薬のイメージからか、「睡眠薬は危険で、寝酒の方が安全」という間違った考えが根強くあり、睡眠薬に抵抗感を示す人が少なくないようです。

 しかし、現在主に使われているベンゾジアゼピン系などの睡眠薬は正しく使えば危険な作用は極めて弱く、むしろアルコール類よりも安全といえます。

 一方、ほかの病気のための薬のせいで眠れなくなることがあります。睡眠薬がかえって良くない場合もありますので、こうした病気が隠れていないかどうか、主治医とよく相談することも大切です。

(長崎市虹が丘町、道ノ尾病院精神科 田島 光浩)
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