長崎新聞健康欄
前の記事へ 記事一覧へ 次の記事へ

2008年5月5日掲載

消化器疾患と食物摂取


 国民栄養調査の結果から日本人の栄養摂取量の変遷を見ると、一日当たりの総エネルギー摂取量は一九六〇年の二千六十九キロカロリーから、二〇〇五年は千九百四キロカロリーと減少気味です。しかし、総エネルギーに対する脂肪エネルギー比は六〇年の10・6%から、〇五年には26・5%と上昇しています。食事内容が欧米化しており、それに伴って欧米型の疾患も増えてきています。

 消化器疾患では、肥満による逆流性食道炎、不飽和脂肪酸(特にω6系)の摂取増加が誘引とされる潰瘍(かいよう)性大腸炎、クローン病(腸管壁に炎症や潰瘍などができる慢性炎症疾患)が増加しています。腹痛や腹膜炎の原因となる大腸憩室症も食物繊維の不足や高脂肪食が一因とされます。

 肝臓では脂肪肝の増加が挙げられます。脂肪肝の一部には肝硬変に移行するケースもあり、注意が必要です。

 次にがんと食物との関連を見てみましょう。

 最近の日本人のがん死亡率はがん全体では低下傾向にあります。男女とも胃がんの減少が著しいためです。胃がんはピロリ菌感染が最大の原因ですが、塩分摂取量が多いとリスクが高くなるともいわれています。戦後、塩分摂取量が減ってきたことが胃がんの減少にも関与しているといえそうです。

 男性では前立腺がん、女性では乳がんが増えていますが、注目すべきなのは男女とも大腸がんや肺がんが増えたということです。

 大腸がんやその前がん状態である大腸腺腫(大腸ポリープ)の発生は、血糖値をコントロールするホルモンであるインスリン抵抗性(感受性)との関連が最近指摘されています。日本人の運動量の低下による肥満や糖尿病の増加が、近年の大腸がん増加につながっているといえます。

 世界がん研究基金と米国がん研究協会の昨年十一月の発表によると、大腸(結腸)がんのリスクを下げる「確実」なものは「運動」で、リスクを下げる「可能性大」なものとしては「牛乳」「食物繊維」「ニンニク」などが挙げられています。

 食道がんは飲酒や喫煙が重要な誘引となります。飲酒により顔面紅潮や吐き気を催しやすい人は、アルコールが分解されてできる有害物質アセトアルデヒドが血液に残りやすく、食道がんや頭頸(とうけい)部の発生が多いとされています。

 厚生労働省の研究によれば、エタノールに換算して一日当たり二十五グラム(日本酒一合相当)の飲酒で、すべての「飲酒関連がん」(口やのど、食道、肝臓などのがん)のリスクが上昇しました。

 世界がん研究基金の報告では、「非でんぷん野菜」はのどや食道、胃のがんを、「果物」はこの三つの部位に加え肺のがんのリスクを下げる「可能性大」とのことです。ビタミン類の抗酸化作用が消化器がんの抑止に寄与しているのでしょう。

 先日、本県はがんによる死亡率が全国ワースト10になったとの報道がありました。和食中心とした食事で野菜を多く取り、アルコールを控え、しっかり運動すれば、がんは防げるようです。心掛けていきましょう。

(長崎市江の浦町、有冨内科医院 院長  有冨 朋礼)
>>健康コラムに戻る

前の記事へ 記事一覧へ 次の記事へ