長崎新聞健康欄
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2008年5月19日掲載

子どもの近視


 われわれ眼科医がよく相談を受ける件に子どもの近視の問題があります。日本はもともと近視の多い国で、最近の統計を見てもさらに増加しているようです。しかし、近視の発生に関してはいまだ分からないことが多く、明確な答えを持っていないのが現状です。

 児童、生徒の裸眼視力〇・三未満のほとんどは近視が原因とされます。近視の発生原因には遺伝的要因が関係する先天性近視(持って生まれた素質)と、環境要因が関係する後天性近視があります。それらが組み合わさって近視は発症すると考えられています。

 遺伝的要因については、近視は単一の遺伝子ではなく、複数の遺伝子によって制御されており、発症しやすさが遺伝すると考えられています。環境要因としては、ゲーム機の使用などで近くを見ること(近見作業)を長時間続けることや、度の強すぎる眼鏡、ストレス、照明などの影響が指摘されています。

 眼球でレンズの役割をする水晶体はピント合わせをしています。例えば携帯電話やゲーム、パソコンなど近見作業を行うと、水晶体を膨らませる毛様体筋が収縮して光を屈折させる力が高進し、作業の中止とともに毛様体筋は弛緩(しかん)します。その弛緩が妨げられると近視化することになります。これにはストレスも関与しているとされます。

 また、これらの近見作業が目の長さ(奥行き)に影響し、近視の進行に働くといったデータもあります。

 携帯電話やゲームのやりすぎがすべて近視の原因ではありませんが、使用時間の制限や作業後の休息がやはり重要になります。

 照明に関して「暗いところで本を読むと近視になる」といった話をよく聞きますが、それを検証したデータは今のところないようです。むしろ最近、注目されているのが明るすぎる照明の影響で、かえって近視化させるといった報告があります。日本は欧米諸国に比べて照明が明るすぎる傾向があり、気を付けておきたい点です。

 眼鏡を掛け始める時期についてもよく相談を受けます。近視は基本的に遠方が見えにくくなってきますので、日常生活で不自由を感じるのであればいつでも装用して構いません。視力が〇・三以下であれば眼鏡をお勧めしますが、あくまで大まかな目安であり学年や個人差で違いはあります。特に学校生活で黒板の文字が不自由なく見えるかは大事なポイントになります。

 ただ、これには正確な近視の検査を受け、眼科医で適切な眼鏡の処方を受けるという絶対条件があります。誤った処方は近視の進行、眼精疲労の原因になります。適切な処方であれば、眼鏡が原因で近視が進むことはありませんし、眼鏡を掛けたり外したりしても問題はありません。適切な対応で、子どもたちに不自由のない学校生活を送らせてあげたいものです。

(長崎市元船町、津田やすお眼科 院長  津田 恭央)
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