長崎新聞健康欄
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2008年8月4日掲載

妊婦検診について


 四月から県内で妊婦健診の公費負担制度が改正されました。妊婦健診の費用を市町村が補助してくれる制度です。

 妊娠は病気ではありませんので、妊婦健診や出産にかかる費用には健康保険は適用されず、原則自費になります。経済的理由で妊娠二十八週までに妊婦健診を受けなかった妊婦は二〇〇七年度に全国で一千人以上おり、そのうち出産後に母子健康手帳の交付を受けた妊婦は二百五十二人に上っています。

 この二百五十二人は妊娠中一回も妊婦健診を受けることなく、陣痛で初めて病院に駆け込んでくる人たちです。このような妊婦は大変危険だと言わざるを得ません。

 妊娠週数が分からないので、胎児が正常な発育をしているのか判断できませんし、さまざまな合併症が存在するかもしれません。分娩(ぶんべん)時に母体、胎児に何が起こるか予測できません。言い換えれば、分娩に際して何が起こっても迅速に対応できる体制を確保する必要があるということです。

 このような不測の事態に対応できるよう、私たち県内の産婦人科医師の団体は、周産期における救急医療体制を整備し、皆さんが安心してお産ができるよう日々努力を重ねています。ハイリスク症例に対しても、自院での対応が困難な場合、二次、三次救急施設への搬送が可能です。

 一方で、妊婦の皆さんは妊娠が分かったら早めに産婦人科を受診し、健診はきちんと受けるという意識を持つ必要があると思います。

 これまでにも妊婦健診公費負担制度はありましたが、妊娠期間を通じて二回だけで、内容も不十分なものでした。今回の改正は妊婦の経済的負担を軽減する目的で、県内では妊娠期間中五回まで公費で補助することになりました。対象外だった妊娠糖尿病、C型肝炎、成人T細胞白血病(ATL)、エイズウイルス(HIV)のスクリーニング検査も受けられるようになりました。

 しかし、風疹(ふうしん)やクラミジア検査はいまだ対象外です。超音波検査も毎回含まれているわけではありません。医療機関によっては公費以外の検査を行うことがあり、その検査料は妊婦の自己負担になり、窓口での支払いが発生します。母子健康手帳の別冊に添付されている妊婦健診受診票(五枚)は「診療補助券」であり、無料券ではありません。

 ところで、妊娠初期に公費でHIV検査が受けられるようになったわけですが、なぜ妊婦にHIV検査を行うのでしょうか。それは、母子感染を予防する必要があるからです。

 県内のHIV感染者は〇七年末までの累計で十九人(男性十五、女性四)いましたが、そのうち一人は母子感染でした。妊娠中にHIV感染が分かっていたら、母子感染は防げたかもしれません。

 妊娠はよい機会かもしれません。HIV検査をぜひ受けてください。もちろん妊婦でなくても、県内の保健所では無料、かつ匿名で検査が受けられます。詳しくは最寄りの保健所に問い合わせてください。

(長崎市万屋町、牟田産婦人科 副院長  牟田 邦夫)
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